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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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立派な役割のひとつ

 彼女は言った。

 "私も、おふたりとご一緒させてください"、と。

 それは共に戦うことと同義だが、その意味を彼女は理解しているのだろうか。


 ……どうやら、本気のようだ。

 しっかりとした決意を感じさせる気配だった。

 同時に、彼女は気持ちを奮い起こしながら話していた。


 戦うことに嫌悪感を抱いてるオリヴィアは、そもそも向いていない。

 前線に出れば、まず間違いなく大きな迷いが生まれるだろう。

 それは時に自分だけじゃなく仲間を傷つける事態を招く。


 彼女の性格は優しすぎる。

 それはフラヴィとも違う優しさだ。


 オリヴィアの場合、傷つけることそのものに嫌悪感を抱いてるから、すべての命を尊いものとして捉えているんだろう。

 その考えは正しいし、人の心とは本来そうあるべきだとも思う。


 しかし戦いにおいてその思考は非常に危険だ。

 手を差し伸べたところで返ってくるのは刃。

 狡猾に、残忍に襲い掛かってくるだろう。


 元々オリヴィアに戦いは向かない。

 彼女に武器は似合わないからな。

 本音を言えば持たせたくもない。


 彼女の本質は"優しさ"。

 だが、それこそが彼女を弱くしている。

 迫り来る敵に反撃することそのものが、彼女は不快に思ってるんだ。


「戦うことに躊躇いを感じるならやめたほうがいい。

 オリヴィアは相手を攻撃するだけでも心が痛くなるだろう?

 なら、無理はしないで"管理世界"にいるべきだと俺は思うよ」


 このまま修練をすれば、彼女にとって世界は辛く厳しいものだと思うだろう。

 "生きることは辛いんだ"なんて思ってほしくないし、俺はこの優しくて美しいと素直に思えた世界を見せてあげたい。

 武器を持って戦うことじゃなく、安全な世界を笑顔で歩いてほしい。


 しっかりと言葉で伝えたが、彼女の意志は固いようだ。

 妙な頭の固さはオリヴィアが眠る前にも持っていたなと、懐かしく思えた。


「……それでも私は……強く、なりたいんです……。

 ……大切なひとを護り、共に歩くために……」


 真剣に彼女の決意と向かいながら、俺は別のことを考える。


 誰かのために強くなることは悪くない理由だ。

 相手を傷つけずに済むのならと思っている彼女の心も正しい。

 しかし、そのために攻撃しようと考えるのは矛盾している。


 悲痛な面持ちのまま答える彼女が戦いに向いているとは思えない。

 前向きな思考を持てるようになったのはいいが、恐らくは修練を積んだところでまともに戦えないんじゃないだろうか。


 たとえ攻撃ができたとしても、一打を当てれば当てるほどオリヴィアの心は抉られるように深く傷つくはずだ。

 そんな彼女に戦闘技術を学ばせたところで逆効果だと思えた。


 だがひとつだけ、彼女でも戦える方法がある。

 そこに気が付かないみたいだから、しっかりと伝えて彼女に選んでもらうか。


「オリヴィアが心を痛まずに戦える、唯一無二かもしれない手段がある」

「……そんな方法があるのか?」


 聞き返したのはレヴィアだった。


 一般的に考えれば、そんな方法はない。

 誰かと戦えば必ず誰かが傷つくのは必定。

 これに関しては変えようもない事実だ。


 だが、オリヴィアなら別の道を歩めるだろう。

 それはとても厳しく、子供たちには絶対に歩ませない手段。

 まるで綱のような細い道を歩かせかねないものになる。


「攻撃するのが嫌なら、防御魔法を極めればいい。

 そして戦術を学び、仲間が安全に戦えるように支える。

 仲間のサポートをするのも立派な役割のひとつだよ」

「……ふむ。

 確かにそうではあるが、それはいささか危険ではないか?」

「あぁ、その通りだ。

 この戦い方は相手に膝をつかせることはできても、魔物すら倒せない。

 命を奪うこともないが、相手を制せなければ逆にオリヴィアが危険になる」


 魔物や悪党との戦いは試合じゃない。

 真剣勝負の場で制することができるのは相当の強者のみ。

 圧倒的ともいえる技量さがあって初めて可能とする戦い方だ。


「……相手を制すってことは、ごしゅじんみたいな戦い方ってこと?」

「言いたいことは分からなくもないが、俺はしっかりと攻撃を当てられる。

 相手に直接的な攻撃をしなくても、仲間の助力があれば戦えるって意味だよ。

 この方法はメリットよりもデメリットの方がかなり大きいんだ」

「……そっか。

 ひとりだと魔物を倒せない戦い方ってことだね」

「あぁ。

 だが逆に言えば魔物をひとりで倒す必要もない。

 俺たちは大人数でパーティーを組んでいるからな。

 そもそも"攻撃をしなければ戦えない"なんて話でもないんだよ。

 できないことを互いに補い合い、助け合うのが"仲間"だ」


 そうあるべきだし、そうありたいと俺は思う。

 だからこそチームを組んで冒険をしているんだと思えるからな。


 攻撃ができないなら、別のことに特化すればいい。

 独りで旅をするには危ないが、絶対的な魔法壁を使えれば安全に町へ行ける。

 ただ敵対者を倒せないだけだ。


「それに防御魔法は非常に優秀だ。

 仲間を護ることも、敵の行動を阻害することもできる。

 攻撃魔法でも似たような使い方はできると思うが、威力が強すぎるからな。

 使い手の発想力と努力次第でいくらでも違った効果を見せるのも魔法の強みだ。

 なら、それを極めればいい。

 誰にも砕けない盾を作り出し、仲間を護ればいい。

 オリヴィアが嫌なら、敵に攻撃する必要なんてないんだよ」


 それならそれで、違った形で力を手にすればいい。


 リージェは防御よりも一撃必倒魔法を好む。

 確実に倒せば安全に繋がるから間違いではないが、オリヴィアには向かない。


 だったらリージェにも貫けない防御魔法を使えるようになればいいだけだ。

 彼女の攻撃を護り通せば、この世界でも相当の使い手になれるはずだからな。

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