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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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どれだけ大変なことか

 他の3人は、どう思っているんだろうか。

 なんて、性格を考えればそう答えるのも分かっていたが。


「私は主さまの剣。

 それはどんな約束よりも強固で、何ものにも代えがたい大切なものです。

 この決意は、主さまに尽くすと心に決めた瞬間から何も変わっていません」

「……修練をしても、強くなれない可能性だってあるんだぞ」


 クラウディアはリゼットと違い、"英雄の資質"を持っているわけではない。

 修練に時間をかければ必ず力を手にするとは言い切れないし、何よりも差し迫った現状ですべてを彼女たちに費やすこともできなくなった。


 オーフェリアも同じだ。

 ふたりとの約束は必ず果たすが、先に延びる可能性が高まった。

 1年の期間を有効に活用しなければ、取り返しがつかないことになりかねない。


 それはすなわち、世界の破滅を意味するからな。


「ん。

 私はフラヴィを護りたい。

 ブランシェもエルルも護りたい。

 今はまだ遠いけど、必ず追いつく」

「その気持ちは嬉しいが……」


 いや、そうじゃないな。

 言葉は弱く聞こえるが、彼女の想いにはこの中の誰とも違う質が込められているのは間違いない。

 むしろ、彼女らしさを感じさせる強さがあった。


 ……そうだよな。

 今度こそ護りたいと強く想ったんだから、それをせずに離れることなんてできるわけないよな……。


 だが、彼女も特別な資質は持たない。

 ある意味ではリージェに匹敵する魔力量とそれを体現するだけの潜在能力を持つが、あの時に発動した力を二度と使わせるつもりはない。


 もちろん、努力がすべて報われるとは限らない。

 時間を費やしても届かないかもしれない。


 ……だとしても、これまでの話から一筋の光明が見えた。

 それを体現すれば誰でも強さを手に入れられるはずだ。

 女神の話では、これまで経験してきた情報が魂に蓄積されてるのは間違いない。

 もし仮にそれらを引き出すことができれば、状況は大きく変わる。


 しかし、経験したことのない可能性だってある。

 何よりもその力を手にするのは容易じゃない。


 恐らくは意図的に引きずり出すような乱暴で粗雑な手段になるだろう。

 意識的に魂から引っ張り出すなんて前人未踏のことかもしれない。

 人の身にできるのかも俺には分からないし、判断もできない。


 ……それでもふたりは、迷いなんて微塵も見せない気配を維持していた。

 穏やかにも思える波長から察するに、俺が否定したところで聞き入れてくれなさそうだな。


「……ふたりには条件を付けたい。

 3か月で"ある程度の結果"を残してほしい。

 それまでは俺もふたりの修練を優先するが、伸び悩みを感じたらこの"管理世界"で待機してもらい、以降は一件が片付くまでここにいてもらう。

 すべてが解決した上で修練を希望するなら、ふたりが満足するまで付き合うよ」

「ある程度とは、どのくらいなのでしょうか」

「迷宮81階層から90階層までクリアすること。

 それも、オーフェリアとふたりだけで、だ」


 俺の言葉に空気が変わる。

 みんな意識がこちらに集中するが、それも当然だ。

 俺の提示した条件は厳しいどころか、不可能だと言われても仕方がない。


「はっきり言って、これは無理難題だと思ってくれていい。

 必要スキルは相手の行動を予測できるほどの熟練した気配察知と、魔力の流れを確実に見抜くための魔力感知、弱点を正確に打ち抜き敵を圧倒するだけの身体能力に加え、冷静に集中し続ける強靭な精神力、"静"の下位、中位技と"動"の上位技をしっかりと体得しなければ、90階層のクリアは難しいと俺は推察してる」


 これがどれだけ大変なことか、ふたりがしている想像を遥かに超えるだろう。

 いくら心技体を鍛えようと、ゼロから流派を学ぶだけじゃなく、たったふたりで実質攻略不可能とも言われる大量のアンデッドを討伐しながら先を目指さなければならない。


 無茶や無謀を通り越して、"無理だから素直にここで待て"と言われているように聞こえるかもしれないが、ここで躓くようなら俺のできることを優先しなければならないことも、ふたりなら分かるはずだ。


 たったの1年しか時間がない。

 それまでに俺自身が徹底的に強くなる必要がある。

 本音を言えば、ふたりの修練を見てあげるだけの余裕もない。

 失敗は許されない以上、可能な限り鍛えなければならない。


 だからといって、ふたりの気持ちを蔑ろにはしたくない。

 そんなことをするつもりもまったくないが、俺たちの立っている強さの領域を理解してほしかった。



 言葉の意味を正しく感じ取ってくれたんだろう。

 とても真剣な表情で、みんなはこちらを見続けた。

 しかし、耳に届いた声に、俺の思考はかき乱されることになる。


「……私も、おふたりとご一緒させてください」


 思いがけない言葉がオリヴィアから発せられ、俺はただただ戸惑うことしかできなかった。

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