誰にも負けない
俺の言いたいことも、しっかりと伝わっているはずだ。
みんなは決して弱くないどころか、世界基準で言えば最上位にいるのは確実だと俺は思っている。
それでも連れて行けない。
理由も分かってるだろう?
これからの行動は非常に危険なものになる。
暗殺者や狂人を相手にするどころではないんだ。
しかも決定的な一撃はもちろん、敵にダメージを与えられるかも分からない。
独学とはいえ、1000年以上研鑽を続けたブランディーヌが相討ちになったような相手に、怪我では済まされない可能性だって十分に考えられるんだ。
それに俺は"元凶"と確実に戦うことになる。
その時は、たとえどんな理由があろうとみんなを連れて行かない。
俺も無事でいられるとは言い切れないし、都合良く言えば"みんなが待っていてくれるなら頑張れる"からな。
そういった意味でも"邪神"を相手にするなら連れて行く選択はない。
沈黙が続く中、最初に答えたのはフラヴィだった。
この子ならそう答えるだろうと思っていたが、年齢も心も幼いフラヴィに今の問いは難しすぎたようだ。
俺の服を両手でぎゅっと強く掴み、抱き着きながら言葉にした。
わずかに震える様子から、とても不安にさせてしまったことは分かる。
それでも、この子の答えを素直に受け入れていいものかは悩んでしまうが。
「……いっしょ……パパと、いっしょがいい……。
わたし、もっと強くなるから……置いて行かないで……」
「置いて行ったりなんて、絶対にしないよ。
ただ、問題が解決するまではここで待っていてほしい。
この場所なら俺も安心できるし、終わったら必ず迎えに来る」
優しく抱きしめ、頭をなでながら言葉にした。
だが、こんな言葉じゃ駄目だ。
この子を納得させられない。
……そうだよな。
どんな時でもずっと一緒だったもんな、俺たちは。
こんな言葉だけで離れられるわけがないよな。
「……ごしゅじん。
やっぱりアタシも連れて行ってほしい。
ごしゅじんに言われたこと、正直に言えば良くわかんない。
でも、このままじゃダメなことだけは分かった。
母さんの敵を討ちたい気持ちはあるけど、それよりもあんな連中を野放しにすれば、きっとアタシみたいな子をたくさん増やすことになる。
アタシは毎日が楽しいし、とっても幸せだよ。
だけどそれは、ごしゅじんやみんなが傍にいてくれるからなんだ。
でも、やつらに家族を奪われた子は、そうじゃないかもしれない。
……そんなのダメだ。
絶対に良くない!
アタシは、みんなが笑っていられる場所が大好きだもん!
だからアタシは戦うんだ!
ごしゅじんやみんなと離れるのは嫌だけど、悲しい気持ちを増やすのはもっと嫌だから!!」
真っすぐに俺の目を見て答える子の言葉を、俺は心から嬉しく思った。
……あぁ、こうして子供は成長するものなのかもしれないな。
そんな、親みたいな考えが自然と頭をよぎった。
ブランディーヌとは随分と違う印象を持ったが、それもすべてはフラヴィやみんなと歩んだ気ままな旅が、母親とは違う道を進ませたんだろうか。
……本当に、真っすぐ育ってくれたんだな。
今のブランシェなら、絶対にブランディーヌも誇らしく思ってくれるよ。
「フラヴィだって同じ気持ちだよ。
それよりも、ごしゅじんとお別れしないといけないって思った気持ちが先に来ちゃってるんだ。
アタシにだって分かるくらいだもん。
ごしゅじんも分かってるんでしょ?」
……痛いところを突く。
矛盾だよな、その考えは。
大切だから"管理世界"にいてほしい。
でも大切だからこそ一緒にいて護ってあげたい。
正常な判断ができていないな、俺は。
それでも、何かあれば俺は生涯自分を責め続けることになる。
今のフラヴィたちでも一瞬で倒されることはない。
俺がそれを赦したりはしない。
だとしても、安全な場所にいてほしい。
……堂々巡りだ。
まともな思考ができていない証拠だな。
どうすればいい……。
どうするのが正解だ……。
……いや。
答えなんて、最初からないのか。
あるのはただの"選択"。
それが何を導き出すのかは、つまるところ結果でしかない。
……それなら、きっと……。
「みんなで強くなろう、ごしゅじん!
"ジャシン"ってのには戦えなくても、アタシたちにだってできることがあると思うんだ!
アタシたちはそれと戦いたいわけじゃないもん!
ただ、ごしゅじんの力になりたいって気持ちは、誰にも負けないよ!」
覇気のある言葉でブランシェは答えた。
その様子を優しい眼差しで見守っていた大人たちは、彼女に続いて話した。
「言いたいことはブランシェに言われてしまったが、我らも気持ちは同じだ。
それにここで別れたとしても、我らは我らで行動することになるだろう。
ならば主の目が届く所に置いたほうが、何かと都合がいいと思うが?」
「ふふっ、そうですね。
私もトーヤさんと同じ道を違う場所から辿るだけになるでしょうね。
それに私の魔法も、杖を使えば通用するかもしれませんよ」
「ブランシェちゃんのお母さまも"英雄の資質"持ちであるのなら、トーヤさんに教えていただいた技術を昇華させることで状況が変わるかもしれません。
もしも"廻"での討伐が無理ならそれ以上の技術を学び、体得した上で通用しなければ別の役割のために行動をするのも悪いことではないと私は思います」
確かに、みんなの通りだ。
むしろその可能性に気付いても、みんなは実行しないと思っていたことがそもそもの誤りか。
ここで別れても、俺とは違う道を歩むだけなら、レヴィアの言う通り傍にいてもらったほうが対処できることは多いと思えた。
……覚悟が足りなかったのは、俺だったな。