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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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俺であれば

「話が逸れてしまいましたね。

 トーヤさんをお呼びした理由は、お察しいただけたと思います。

 もちろん、トーヤさんが帰還を望むのであれば叶えることも可能です。

 しかし、揺るがぬ決意を抱いているのではありませんか?」

「あぁ。

 俺は元の世界には戻らない。

 この世界でやるべきことを見つけた」


 振り回されるのは性に合わないからな。

 燃え滾る怒りを抑えながら、俺は静かに答えた。


「……俺の手で、ケリをつけるよ」


 それ相応のけじめ(・・・)をつけてもらう。

 逃がしたりも絶対にしない。

 確実に仕留めてやる。


「さきほどもお伝えしたように、現在は安定しています。

 芽吹く前に再びこの"管理世界"へ戻り、現状と以降の対応策をご説明させていただく予定です」

「そのためには徹底的に鍛える必要がある。

 多く見積もっても期限は1年ほどしかないってことだな」

「はい。

 "敵"はすでにこの"ラティエール"への侵攻を始めています。

 ……情報の開示を希望しますか?」


 女神の言葉に迷いを感じた。


 いや、それもそのはずだ。

 正直なところ、この子に見せていいのかも分からない。

 俺自身もかなり迷ったが、意を決して視線を向けた。


「……大丈夫だよ、ごしゅじん。

 その覚悟もできてるから」

「……わかった。

 見せてもらえるか?」

「はい」


 短く答えた女神は問題のそれ(・・)を胸の高さに出した。

 半透明に見えるのは、実体のない映像だと分からせるためか。


「大きさ70センチほどの黒く歪な塊に見えますが、体積が何倍にも膨れ上がる現象を確認しています。

 伸び縮みするスライムのような性質を持ち、鋭い刃や針などに形状を変化させ、動きは非常に早く、また物理、魔法ともに"ラティエール"で最も耐久のあるゴールドスライムとは比較にならないほどの耐性を持ちますので、この世界の住人にはまず倒せないでしょう。

 魔力を持たず、また生命力すら感じさせない特異な存在ですので、トーヤさんの技術をもってしても発見することは困難を極めると思われます」


 ……だからあの時、彼女の気配しか感じなかったんだな……。


 こんなものが存在していたとは……。

 さすがに想定の範囲内だけの話で留めておきたかった。


「さらには強力な魔物、もしくは人間を取り込み、己が物として力を蓄えた上で来たるべき時に備え、地下深くに潜り活動を休止します」

「一斉蜂起するかのように、地の底から湧いて出るのか……。

 ……姿形といい、まさに"歪な闇(テネブル)"そのものだな……」

「我々は"捕食者(プレデター)"と名付けていますが、問題は存在を人が感知できない点ですね。

 私がこの姿を捉え、解析できたのもごく最近で、それも大規模な戦闘が地上で繰り広げられた記録から調査したことが切欠です」


 その言い方だと、すべてが終わってから知ったんだな。

 彼女の性格上、さすがに戦闘中に気付けば何らかの策を講じたはずだと思えた。


「……生命力も魔力も存在しないのなら、どうやっても俺には見つけられないが、これに関してはもうそちらで対応策も検討しているんだろう?

 総数や発生源、または送り込まれた状況等の情報はあるのか?」

「それは私が受け持つことになったわ。

 トーヤ君たちとのお話が終わったら行動に移すから、そう時間をかけずにプレデターは駆逐できると思う。

 ラティは私と違って地上に降りただけで一帯を消失させかねないわ。

 彼女は"管理世界"で情報収集を担当してもらうことになるの。

 ……私が呼ばれた大きな理由も、これなのよね……」


 どうやらこの女神はラーラさんと違って、力加減がまともにできないらしい。

 逆に言えばそれだけ凄まじい力を内包しているって意味になるんだろうが……。


「……聞かなかったことにする。

 ということは、厄介なのは"種"のほうか。

 生命体に寄生されたモノが同時多発的に覚醒すれば、とんでもないことになる。

 そういった意味でも、俺を必要としたんじゃないか?」


 物理、魔法ともに高い耐性を持ってようと、俺であれば対処が可能だ。

 斬ってみなければ実際には分からないが、推察通りなら奥義を打ち込めばいい。


「説明もなく"ラティエール"に呼ばざるを得なかった事情があったんだろ?

 接点を持つだけで"敵"に気付かれる可能性もあるだろうし、何よりも現状を聞けば俺は絶対に断らないからな。

 ……となれば、"敵に対して致命傷を負わせることのできる戦力"として、俺は期待されているのか?」

「仰る通りです。

 我々はあなたたちの"技"に希望を見出しています」


 ありとあらゆる情報を知った上での行動か。

 逆に言えば、今の俺では役不足だってことだ。

 希望を現実的なものとするにはひとつしかない。


「……技術を磨かなければならないな。

 俺がその領域(・・・・)に踏み込めなければどうするつもりだったんだ……」

「その時は可能な限り多くの神々が協力して、空間ごと凍結(・・・・・・)させていたわ。

 無限とはいかないけど、確実に1000年は髪の毛一本動かせないでしょうね」


 ……なんとも恐ろしい言葉が金髪の女神から放たれた。

 これはもう、"そんなことは可能なのか"なんて話じゃない。


 それに今の言葉は、とんでもない意味を含んでいた。

 能天気に聞き流せるようなガキなら良かったと、俺は本気で思った。


「……冗談じゃない。

 人を辞めた(・・・・・)つもりはないんだぞ……。

 神々でも討伐できない邪神(・・)相手に致命傷を与えられる(・・・・・・・・・)ってのか、俺は……」


 それじゃ、俺も確実に"神に届きうる力"に到達するって意味じゃないか……。

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