表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
671/700

終わったのだと

 だが俺の聞き間違いでなければ、確認しておく必要のある言葉が含まれていた。


「……"問題はそこではない"とは、どういう意味だ?」

「その前に、先ほどの問いにも答えますね。

 魂のみの状態でこの世界に迷い込んだ命は"ラティエール"に順応する体を与えることで、元いた世界への帰還が難しくなります。

 これは世界に適した肉体を"別の世界に持ち込まないための措置"にもなるのですが、その詳細はトーヤさんが所有しているスキルからもご理解いただけるかと思います」

「……そうか。

 つまり、この世界で手にした技術も含め、別の世界に能力を持ち込める(・・・・・・・・)わけか」


 その結果が何を生み出すのかは想像に難くない。

 身体能力強化魔法にも言えることだが、もしも一般的な魔法やスキルをそういったものがない世界で使用されたら、大問題どころでは済まされない。


 言ってみれば、世界征服が可能な存在として元の世界へ戻ることになる。

 スキル所持者のモラルに任せるには、あまりにも危険すぎる。

 世界を軽々しく越えないために神々が制限をかけるのも当然だ。


 だがそうなると、俺も元居た世界に戻るべきじゃないと思えた。

 闇属性魔法や回復魔法を持ち込んだ状態で帰還することになるからな。

 特に"エスポワール"は万病を治し、失った肉体まで復元させてしまうだろう。

 こんな凄まじいスキルは絶対に地球へ持ち込まないほうがいい。


 恐らく神であれば封印処置のようにスキルの使用を制限してくれるとは思うが、別問題から帰る選択がどんどん狭まっていることは間違いなかった。


 まだ答えを聞いていない以上は推察の域を出ることはない。

 それでも、内心では確実なものとして俺の中では"答え"が出ていた。


 ……連れて行けないんだ。

 フラヴィたちは、この世界の住人だから(・・・・・・・・・・)


 この世界で生まれ育った以上、その体も"ラティエール"に適応している。

 それを別の世界に向かえないような制限が加えられているのだから、日本へ連れ帰ることは現実的に不可能となった。


 "連れて行けないのであればこの世界に残る"とは、まだ言葉にできない。

 それでも、これまでしてきた旅が終わりを迎えようとしていることは確実だ。


「先ほど言葉にした問題と、トーヤさんをこの世界に呼び寄せた理由ですが――」


 女神エルルミウルラティールから次々と飛び出す言葉に、もはや驚愕と戸惑い以外の感情が出てこない俺がいた。

 そして彼女の話は、これまで続けてきた気ままな旅が終わった(・・・・)のだと確信した瞬間でもあった。


 あまりにも衝撃的な事実を聞かされた俺は、こめかみを押さえるように右手で額を覆うことしかできずに立ちすくんだ。


 同時に彼女の断片的な情報から、俺がこの世界に呼ばれた理由も理解した。

 俺以外の誰にも解決させたくない事件が、"ラティエール"に降り立つ前からすでに起きていた事実を知った。


 家族と引き離され、一方的に異世界に呼ばれ、その身を穢された(・・・・)

 それすらも俺は知らずに、のんびりと世界を歩いていたんだと思い知らされた。


「…………よく分かった。

 ……そいつが……そいつこそが……"元凶"なんだな……」

「はい。

 そしてそれ(・・)は、別世界にも多大な影響を与えているほどの相手です。

 もし、トーヤさんのお力をお貸しいただけるのであれば――」

「わかっているつもりだ。

 まずは俺自身が強くなる必要がある。

 その"種"を取り除くことは可能か?」

「魂を覆うように根を張っていますので、一度完全に肉体を消失させなければ取り除けないと結論付けました。

 同時に救済措置として、ほぼ同等の情報量を持った肉体をお渡しすることも可能ですが、これには大きな問題点があります」

「肉体がこの世界に適応してしまうため、元いた世界への帰還は絶たれるんだな」

「はい。

 こちらに関しては現在も検討を繰り返している最中ですが、そう簡単に解決できるものではないこともご留意ください」


 その覚悟もしていた。

 ルートヴィヒが残した手記には書かれていなかったが、彼もこの世界で生きることを望んだ"空人"だからな。

 俺も同じように、この世界を選ぶだけだ。


 ……唯一の心残りは、父さんに恩を返せなくなったことか。

 でも、たとえそうだとしても、この世界から俺ひとりで去ることはできない。


 フラヴィたちとも離れたくないからな。

 その辺りは"連れて行けない"と知った時からすれば、悩まずに選べる。


「現在は状態が安定していますが、そこまでの時間は残されていません。

 恐らくは1年半から2年ほどで完全に覚醒し、世界を覆い尽くす最悪の存在として人々の前に君臨することになるでしょう」

「……そうか」


 一言、俺は女神に返した。


 負の感情が俺の心を蝕むように重々しく纏わりつく。

 そのすべてが何かは理解したくもないようなおぞましいものだ。

 だが、ひとつだけはっきりしている感情は認識できた。


 "殺意"


 これは、"潰す"なんて生易しいものじゃない。

 それを遥かに超える負の感情だ。



 ……随分と好き勝手やってくれたな……。

 どんなツラをしているのかは知らんが、お前だけは確実にぶった斬ってやる。


 俺自身の手で――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ