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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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何も知らない

 だがまずは情報を集めるべきだな。

 レンテリア大森林については俺も場所と噂程度の知識しかないから、このまま動くと対処ができない事態になる可能性も高まる。


「……大森林の情報を聞くには、やはり冒険者ギルドがいいか」

「そうね。

 私たちは商業ギルドで聞いてみるわ」

「いいのか?

 折角の休暇なのに、俺たちに付き合うこともないと思うんだが」

「他人行儀なことを言わないでほしいわ。

 トーヤさんたちは私を救ってくれた恩人。

 あのまま放置されていればどうなっていたか、考えるのも恐ろしいわ」


 とても楽しそうに笑いながら答えるアンジェリーヌだった。


 たしかに、ローゼンシュティールからこの町まで魔物が出ない保証はない。

 最悪の場合、盗賊に襲われかねない危険な世界だし、油断はできないからな。


 特にアンジェリーヌは"戦わない覚悟"を心に決めている。

 憲兵隊は町の防衛に集中する予定だったそうだし、エトワールひとりでは断崖にすら到達できなかったことだって十分に考えられる。


 いや、痕跡を見つけるのはスカウトでなければ難しかったはずだ。

 そういった専門的な知識を持たなければ、憲兵でも辿り着けなかっただろう。


 となれば、いつ来るかも分からない救助を待っていたことになる。

 それはそれでアンジェリーヌなら自己解決できそうにも思えるが……。

 武力は持たなくとも、彼女は十分に"強い"からな。


「それじゃあ、お願いするよ」

「えぇ、任されたわ」


 そう言葉を交わした俺たちは席を立つ。

 中央広場まで大森林についての話をしながら、俺はエルルのことを考えていた。


 ……ありえない。

 そうとしか考えようもなかった。

 ここから7日ともなれば、大森林の奥深くになる。

 そんな森から少女が独りで遥か南のデルプフェルト近くまで来れるはずがない。


 ましてやエルルは林の中を彷徨うように歩いていた。

 そこをあのふたりに追い掛け回されていたところを助けたんだ。

 それに街道から馬車を襲ったわけでも、エルルを林へ追い詰めたわけでもないと男たちは話していたからな。

 だとすると馬車で移動していた線も消える。


 考えれば考えるほど理解できない。

 辻褄が合わないどころか、現実的に不可能に思えてならなかった。


 ……なら、エルルはどこから来たんだ?

 これまで考え続けても答えはもちろん、都合のいい解釈すら空々しく思えた。


 思えば、俺たちはこの子について何も知らない。

 記憶が曖昧なんだから当然だと言えるが、それとは違うことに意識が向いた。


 まさかとは思うが、この子は村を追われて逃げて来たんじゃないか?

 魔物や盗賊に滅ぼされるケースもゼロではないと聞いたことがある。

 もしくは放浪するように両親と一緒に交易商をしていたのかもしれない。

 それなら世界中を旅するように移動していたとしても納得がいく。


 ……いや、どんな推察をしても行き着く場所は同じだ。

 デルプフェルト近くの林にいたことは、どう考えてもおかしい。


 指輪の件もあったし、本人が望むように北を目指し続けたが、ここにきてこれまでの疑問が一気に噴き出した。

 それだけ俺にも余裕がなかったのかもしれないが、そんなことは言い訳だ。

 一度この子を預かると決めた以上、すべての責任は俺にあることを忘れるな。


「この辺りで待ち合わせましょうか」

「そうだな。

 それじゃあ、よろしく頼むよ」

「えぇ、わかったわ」

「失礼いたします」


 フランクに答えるアンジェリーヌと表情が柔らかくなったエトワールは、商業ギルドへ向かった。


「俺たちはこっちだな」

「思えば、この町のギルドは初めてだったな」


 レヴィアに言われるまで考えもしなかったが、バウムガルテンで落ち着いてからはギルドに向かうことすら頭から消えていたことにようやく気が付いた。

 落ち着いた旅を楽しもうと思っていたことも影響しているんだろうか。


 ただひとつ、言えることがあるとすれば……。


「……俺は冒険者には向かないのかもしれないな……」

「そういえばあたしたち、掲示板に貼られたお仕事をしたことがないね。

 トーヤは魔物を狩ったり、何かを探したりするお仕事に興味はないの?」

「興味がないわけじゃないが、正直に言えばわざわざ魔物を狩りに行くのはどうかと思ってるぞ。

 それこそ換金できる魔晶石が手に入る迷宮でいいんじゃないかと思えるからな」


 今は俺が安心できるくらい強くなったが、子供たちと巡り合った頃は危なっかしくて戦闘を任せられないブランシェと、幼すぎて戦わせたくないフラヴィ、魔法以外はまだまだ拙いエルルを連れて冒険者稼業をしようと考えなかったのも当然だと思えた。


 そんな時に面倒事が押し寄せてきたから、冒険者ギルドは情報交換と報告をする場所っていう固定観念が俺の中にできあがったんだろうな。


 なら、逆に今はどうなんだろうかと考える。


 ……あまり昔と変わらない気持ちが強い。

 色々なことが起きすぎてってのは言い訳だが、少なくとも生活には困らないだけの資金もあるし、これといって仕事を探す必要性も感じない。


 優先順位はエルルの家族と家探しだからな。

 貴族の件も片付いたし、仕事を受ければ余計な時間をかけることになる。

 できるだけ早く家族を探してあげたい。


 家族が離れ離れになっていることは良くないからな。


 そうならない可能性を振り払いながら、俺は視界に映る冒険者ギルドの扉まで歩いた。

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