引っかかる
何かが引っかかる。
真っ先にそう感じるのも仕方がないことかもしれない。
最近は色んなことが起こりすぎていて疑心暗鬼になっているのも否めない。
それだけの経験を同じようにしてきたエルルが突如として思い出したことも、別段不思議なことではないとも思う。
……それでも、このタイミングで記憶が蘇るのはどうなんだろうな。
しかも詳しく聞けば首を傾げざるを得ない話をこの子はしている。
矛盾にも思えることを話していると、気が付いていない様子で。
綺麗なカフェで軽めの朝食を取りつつ話すような内容でもない。
アンジェリーヌもエトワールも、目を丸くしていることに気が付いてないのか。
……どうしたんだ、エルル……。
なんだか、らしくないぞ……。
「……レンテリア大森林の中に、家があるのか?」
「うん!
大体7日くらいで着くと思うよ!
だから北西に向かって進みたいの!」
満面の笑みで答えたエルルだが、その言葉の意味をこの子は理解しているとはとても思えなかった。
アンジェリーヌも同じことを感じていたんだろうな。
考え込みながら言葉にするが、その話し方は戸惑いを隠せないものだった。
「レンテリア大森林の奥に家があるの?
それもフュルステンベルクから7日も離れた場所に?
さすがに……いえ、私が知らないだけかもしれないわね。
エトワールはこの周辺について何か知っていないかしら?」
訊ねられた彼女も目を丸くしていた。
それはそうだろう。
エルルの言葉に驚くなというほうが無茶だ。
「……森へ行く予定もありませんでしたし……。
ですがレンテリア大森林は魔物も強く、鬱蒼とした森が続くと聞いています。
見通しはそこまで悪いわけでもないそうですが、それも噂話程度の曖昧な情報だと思っていただけると恐縮です」
そんな場所に村があるとは思えない。
ましてや町が造られているはずもない。
そう聞き取れる言い方に感じられた。
「大森林からエルルはデルプフェルトまで歩いて来たのか?
なぜそんな遠くから、それもたった独りで森の中にいたんだ?」
「それ、は……わからないけど……。
でもおうちがあるのは本当だよ!」
焦ったように話す彼女をなだめて落ち着かせる。
嘘を言っているとは最初から思っていない。
ただ、俺はこう聞きたいんだよ。
「記憶違いじゃ、ないんだな?」
「うん!」
瞳に意志の強さを感じた。
逆に正気を保った上での発言とも思えないんだが、この子が言うんだからそれを信じればいいか。
何もなくても、何かしらの手掛かりは見つかるかもしれないからな。
「わかった。
それじゃあ森に進む方向でいいだろうか?」
全員に確認を取るが、反対意見が出ることはなかった。
それが訝しく思っていても、やはり俺と似ている思考を持つみんなだからな。
エルルを家族と再会させたいと思う気持ちは一緒なんだな。