2種類
呼吸を整えたフランツに俺は訊ねる。
確実に何かを感じ取ったはずだと確信を持って。
「どうだ?」
「あぁ、俺にも見えるようになったぞ。
……30秒くらいで消えちまうが、一応はできるみたいだ」
「最初はそれで十分だ。あとは――」
「俺の努力次第だな!」
勢い良く立ち上がるフランツを見て、げんなりとした3人は言葉にする。
「……お前、何でそんなに元気なんだよ……」
「あの気配を浴びて立てるなんて、僕にはできません……」
「同じくです。私はしばらく立てそうもないですね……」
「悪かった。
さすがにそこまで影響が出るとは思ってなかった」
実際に彼らが感じたものとフランツに放ったものは同じではない。
威力がまったく違うとも言えるほどの別物だ。
俺が放ったのはフランツに対してだ。
彼らはその余波を受けただけに過ぎない。
つまり、ディートリヒ達が今もへたるものよりも遙かに強烈な威圧を耐えきった上に、フランツは元気に立ち上がって話をしている、ということだ。
個性が出ると言われているが、こうも違いが出ると教えた方も楽しく思える。
……こんな力、よほどのことでもない限り教えない方がいいに決まってるが。
「そろそろ落ち着いたか?
スキル画面に変化があると思うぞ」
「変化? いったい何が……って、おい!? 増えてんぞ!?」
「本当だ……」
「こ、これはまさか、トーヤさんが持つ……」
「……危険……察知」
この世界で新たにスキルを取得できることは普通だ。
しかし今回のこれは、また違った意味を持つはず。
それを知ってか知らずか、ラーラは静かに話した。
「ユニークスキルね。おめでとう、みんな」
「やはりユニークスキルなのか、これは」
「うん、そうだと思うよ。
一般的には見かけない類のスキルだからね。
それは今日の夜にお勉強するとして、ユニークスキルにも2種類あるのよ」
「2種類?」
「あくまでも私個人の主観による推察になるんだけどね。
ひとつはこの世界の住人が技術を高めて境地に辿り着く際に入手する、と言えばわかるかしら」
「なるほど。もうひとつは空人特有のスキルか」
「ええ。私もいくつか教えてもらったことがあるから、体感でそう思うのよ」
誰でも学べる技術となりかねないことに、気をつけなければならないだろうな。
それでも俺がこの世界にいる理由も分からない以上、どうするべきかは俺が判断するしかないんだが、彼らなら間違ったことには使わないだろう。
「トーヤの信頼を裏切るようなことはしないさ」
「……前々から思っていたが、俺は考えていることが顔に出てるのか?」
「そういうわけじゃねぇよ。ただ、そんな気がしただけだ」
……本当だろうか。
鏡を見たら書いてあるんじゃないか?
段々心配になってきたな。
「それでいいのよ、トーヤ君は。
正しいことを、なんて言わないけれど、あなたには悪いことなんてできないわ」
「何を根拠に断言するのかは聞きたいが、信頼として素直に受け取っておく」
「ふふっ。今はそれでいいわ。
でもきっと近いうちに、あなたは誰かを救うような素敵な男性になるわ。
私があなたに惹かれた理由も、本当のところ美味しいご飯だけじゃないの。
そういった優しさと慈しみを持った魅力的な男性だから惹かれたのよ」
だけじゃないという言葉に引っかかりを覚えるが、俺は突っ込まなかった。
言われて悪い気はしないし、そうありたいと俺自身思う。
「そんなあなただからこそ、私達はトーヤ君のことを大切に想えるのよ」
静かに言葉にした彼女の表情は、いつも以上に優しいものだった。




