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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十七章 目覚め
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とても不思議な感覚ね

「…………なんて、不器用なひと……なのかしら……」


 俯きながら言葉にしたアンジェリーヌは、唇を強く結んだ。

 わずかに震わせて出した彼女の声に俺たちは何も言えず、気持ちが落ち着くのを待ち続けた。


 ここは、どこか不思議な気持ちにさせる。

 荘厳な大聖堂ではなく、避難用の通路のはずなのに。

 この場所に来たことがあるような、既視感にも似た何かを感じる。


 来たことなんて、あるわけないんだがな。

 想像しかできない光景を思い浮かべながら、俺は考えた。


「……ありがとう。

 もう大丈夫よ」

「そうか」


 いつもの輝きを瞳に宿したアンジェリーヌは答えた。


 ……気丈に振る舞っているわけではない。

 彼女は彼女なりに考えをまとめたんだろう。


 彼は、何百年も前の時代を生きていた騎士だからな。

 今を生きる俺たちが彼の消滅に口を出してはいけない。

 そう思えるのは彼自身が満足そうに見えたからだろうな。


 偏見だと思われかねないが、それでも俺は悪くない道を進んでいるように感じられた。


 これで良かったんだ。

 素直に俺は思った。


「さて。

 色々あったけれど、救ってくれたお礼をしなければならないわね」

「その話は町に着いて、ゆっくりしてからにしよう」

「そうもいかないわ。

 折角ここにいるんだから」


 アンジェリーヌの言葉に違和感を覚えた。


 それではまるで……。

 そう言いかけて俺は口を閉じる。

 協調性を高めると言われる"左手の中指"に指輪をつけたアンジェリーヌは言葉を続けた。


「この指輪は王族の血筋にしか反応しない制約があるようね。

 指につけるだけで情報が頭の中に流れ込んでくるだなんて、いったいどういった仕組みなのかしら。

 あくまでも知識と指輪が持つ意味のみだけど、中々興味深いことを知れたわよ」

「そ、それではアンジェリーヌ様は、本当に……」

「そうみたいね。

 ここに指輪を置いたのは、この国を荒らされないためでしょうね。

 他にも王族を利用されないように指輪を処分したかったことや、城の武具を持ち出されたことによって世界の均衡が崩壊するのを懸念していたのだと思うわ」

「要するに、世界の均衡が崩れるようなものが、この城には眠っているのか……」

「えぇ、この先(・・・)にね」


 アンジェリーヌは指輪が落ちていた場所の壁に左手で触れると、音もなく壁が消失した。


「ふむ、隠し通路か。

 王族にしか使えない指輪であれば、拾っても白銀製の装飾品でしかない。

 むしろ避難通路に隠された通路がさらにあるとは、逆に思いつかないか」

「頭の切れるやつでもなければ難しいだろうな。

 ダミーの宝物庫を用意して、目くらましにしていたのか」

「そうみたいね。

 さすがにそっちの宝物庫の情報は知識に含めれていないけれど、問題はこの先にあるものね」


 そう言葉にした彼女は隠し通路にためらいなく足を踏み入れるが、罠の類は一切ないそうだ。

 道すがら、その話をアンジェリーヌはしてくれた。


「……知らない知識を得られるなんて、とても不思議な感覚ね、これは。

 初めて来た場所なのに、頭ではそれらをしっかりと理解しているの。

 この先に置かれているものは……指輪の知識にはないみたいね」

「まぁ、大体の想像はつくよ。

 空からの奇襲を数百年護れる絶大な盾を作り出したんだ。

 人の手に余るからこそ、封印するように隠し部屋へ放り込んだんだろ」


 だが、あの騎士は気になることを言っていたな。

 話をまとめると、数百人を一振りで倒せるかもしれない兵器を奪われたことは間違いないだろう。

 それもこの魔導国家と思えるほどの技術力を保有した国が滅ぶほどの兵器が。


 彼は使用制限がかけられたものだとも言っていたが、つまるところそれは解除されたもので、誰にでも扱える(・・・・・・・)可能性が高い。


「……ね、ねぇ、トーヤ。

 そんな危険なものが、世界のどこかにあるってことなの?」


 青ざめながらエルルは言葉にするが、その推察は正確ではなかった。

 これまでの話を含め、情報の欠片をようやく繋げられそうだ。


「おおよそだが、見当はついた。

 誰がそれを持っているのかもな」

「奪還してこの国に封印することは可能かしら?

 そんな恐ろしいものが人の手に委ねられているだなんて、気が気じゃないわ」

「俺の推察が正しければ、難しいとしか言いようがないだろうな」


 すべてはこの国から始まっていた。

 ここまでくると、アンジェリーヌに出逢えたことすらも運命づけられたものを感じてしまう。


 "誰に(・・)"とは、俺の口からは出したくもないが。


「それで?

 世界を混沌に導きかねないほどの危険な代物を抱え込んでいるのは、どこの誰だと考えているの?」


 非常に強い使命感を受け取れる彼女の言葉に、失われた王国の血を感じた。

 それこそが脈々と受け継がれている精神のひとつなのかもしれないな。


「たしか西の果てにある帝国の初代皇帝は、"マトゥシュカ"と言うんだろ?」

「なるほどね。

 つまり私が不快に思ったのは(・・・・・・・・・・)、そういうことだったわけね……」


 使命感に苛立ちが強く込められた。

 明確に苛立ちを露にしたアンジェリーヌだが、あの時の彼女が退席した理由も今回の一件で確信を得た。


「……と、トーヤ……それって……つまり……」


 言葉に詰まるエルル。

 だが、内心ではこの子も気がついていた。

 それが何を意味するのかも、この子はすべて気づいたんだな。


「"マトゥーシュの(つるぎ)"か。

 ……随分とふざけた名前を付けられたもんだな」

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