付け加えて
大きく開けた空間に豪華な装飾と細工が上品に造られた謁見室。
その広さはもちろん、どこに視線を向けても妥協しない造りと配置されたものから、かつては非常に国力があったことを確信した。
だが、そんなことよりも聞くべき話がある。
声が届く玉座の近くまでやってきた俺は、足を止めて訊ねた。
「どういうことか説明してもらえるんだよな?」
「そうね、私も知りたいわ。
そろそろ話してくださるかしら?」
玉座に座るアンジェリーヌも、スケルトンの方へ視線を向けて言葉にした。
どうやら彼女も大した情報もなく玉座に座らされていたようだ。
その理由も想像に難くないが、あくまでも可能性に過ぎない。
エトワールからすれば、はっきりとした言葉で伝えてもらわなければ納得できるとも思えないからな。
スケルトンはアンジェリーヌへ跪き、頭を深く下げながら、腹に響くような重々しい声を響かせた。
《……それについて述べる前に、どうかお答えください。
彼らはアンジェリーク様が信頼を置く者たちで間違いございませんか?》
「何度も言うけれど、私はアンジェリーヌよ。
うやうやしいお辞儀も必要ないから普通に接してちょうだい。
彼らは心を許せる人たちで、誰よりも信頼している人も来ているわ」
《……そうですか》
一言、スケルトンは答えた。
何かを考え込んでいるんだろうな。
そんな固まったままの骸に俺は訊ねた。
「俺たちを迎え入れたことも含め、アンジェリーヌをさらった理由も話してもらえるんだろ?」
《……おおむね理解しているのではないか?》
立ち上がり、こちらへ向き直ったスケルトンは言葉にした。
彼女を丁重に扱った点や玉座に座らせたことがその答えになっている。
白亜の国が滅んだ理由も、謁見の間にある魔道具が起因していると思えた。
恐らくは軍事力も他国を圧倒するほどの差が開いていたんだろう。
天井に下がる豪奢なシャンデリアは謁見室全体に効果のある巨大な魔道具で、壁に掛けられた紋章入りのタペストリーも同系統の性能を持つようだ。
これらの魔道具は、現在では流通すらしていないもののはずだ。
登録者とその血族、慕う者に至るまで広範囲に効果を与える魔道具。
毒や麻痺などの悪影響を無効化させる凄まじい性能を持つ上、敵対者には破壊すら許さないものだと鑑定結果が出た。
これほど高度な魔道具技術を有するからこそ狙われた。
そこにすべての理由が繋がっていると思えてならなかった。
「絶大な武器か、それとも戦略兵器か。
どちらにしても、この美しい国が狙われる理由はそれくらいだろうな」
「……"センリャクヘイキ"ってなに、ごしゅじん」
「広範囲の敵、または施設を一瞬にして崩壊させる力を持った武器のことだ」
知らない言葉を学ぼうと訊ねたブランシェだが、話の意味を知って青ざめた。
この世界にあるとは思いたくないが、人間ってのは愚かな生き物だからな。
むしろ現在の方が落ち着いた性能の魔道具を高額で売買されているくらいだし、どうやらこの国は世界で最も優れた魔導大国どころではなく、圧倒的な武力を所有した超文明の大国だったようだ。
中世にも思える城造りは見た目だけで、その素材や魔道具を埋め込むように建造物へ取り入れる技術ともなれば、現在ある世界中の国々と戦争しても負けることはないほどの軍事力を保有していたんだろうな。
それは城の外観が何百年と汚れを感じさせないところからも言えることだ。
ともなれば、なぜ滅んだのかも見えてくる。
同質の強さを持った魔道具がここ以外の国で作り出されたとは考えにくい。
もしそうなら高性能な魔道具が現代では一般的に出回っていてもおかしくないし、そうなればもっと殺伐とした世界になっていたのは間違いないはずだからな。
そこから導かれる答えはとても限定される。
「ひと振りで数百人を薙ぎ倒すような凄まじい武器を、裏切り者に奪われたのか」
《……そうだ。
このローゼンシュティールは代々博愛主義者の王族が治めてきた。
争いを好まず戦に介入せず、静かに暮らしてきた白亜の国だ。
だが、滅んだ理由を言葉にしたところで晴れる恨みなどありはしない。
盛者必衰とはよく言ったものだが、私の目的は復讐ではないのだ》
「それがアンジェリーヌをさらった理由なんだろ?」
「"一方的に"、と言葉を付け加えてちょうだい。
ここに来てからの私に対する扱いや、この椅子に座らせたことからも推察できるけれど、まずは話をしようと思わなかったのかしら?」
《……申し訳ございません。
この姿を見て、冷静に話を聞いていただけるとは思えなかったのです》
淡々と言葉にする骸に、アンジェリーヌは怒りを露にしながら答えた。
「随分と見くびられたものね。
私が見た目で判断すると思われるなんて、久々に憤りを覚えるわ」
《……それにつきましては心からの謝罪を……》
「謝罪はいいわ。
まず、そのうやうやしい言葉と態度を改めていただけるかしら?」
言葉にできずにいる骸にアンジェリーヌは、深くため息をついた。
何を言ったところで聞きはしないと確信したんだろうな。
苛立ちを抑えながら話しているのがはっきりと伝わってきた。
「……もういいから、話を進めてちょうだい」
《……かしこまりました》
今度は疲労感を含ませたため息が彼女からあふれた。
どうやら相当の堅物だったようだな、この骸は。
 




