誰がどう決めるんだ
"剣聖のライナー"という言葉に強く戸惑う彼らへ、俺は話を続ける。
この力は彼だけが手にできるものではないと。
並外れた才能を見せ付けられたと思っていたのだろう。
しかし、誰でも体得できると聞いて、真面目に取り組む3人だった。
3日目。
体力面で問題がなかった彼らは、修練に根をあげることはまったくなかった。
それだけ自力のあることは教える側としても非常に効率がいいし、ちみっちゃいのに教え続けてきた俺としては、大人を相手にするのはとても楽だった。
彼らは野獣どもと違って言葉が通じるからな。
そういった面でも楽ができるのは間違いないだろう。
徐々に変化を見せてきたようで、ライナーに続きエックハルト、少し遅れてディートリヒも察知能力を体得できたようだ。
元々彼らも冷静な言動が普段からできていたし、問題ないとは思っていた。
あとはひとり、なんだが、中々難航しているようだ。
そんな彼は、普段とは打って変わって弱々しい声色をあげた。
「……俺、才能ねぇのかな……」
「その言葉は嫌いだな、俺は。
努力すれば到達できる領域を知っているからな。
習熟速度に違いはあっても、学べないことはないと俺は信じている。
しかし努力がすべて報われるとは限らないし、もちろん限界だってあるだろう。
だがそんなもの、誰がどう決めるんだ? 結局そう判断するのは自分自身だろ?
それを才能と呼ぶのだとしても、それを言い訳に諦めることができるのか?」
丁寧に諭すように、俺は言葉を選ぶ。
フランツが悪いわけじゃない。
ディートリヒ達より少しだけ体得に苦労している。
ただそれだけにすぎないのだから。
「…………そう、だな……。
そうだな! その通りだよな!」
「気合、入ったか?」
「ああ! 今なら何でもできそうな気がするぜ!」
「そうか。なら、荒療治でいくか」
「……ぇ?」
声にならない小さな音を上げるフランツを無視し、俺は行動に移した。
* *
「……で。
なんでこうなってんだよッ!?」
手足を縛られたまま地面に転がされたフランツ。
怒りの感情からか、びったんびったんと地を跳ねる彼にラーラは言葉にする。
「あらあら、中々活きのあるお魚さんね。
……ぷーッ! あっははは! もうだめ! 耐えらんない!」
「ぐぬぬぬっ」
「……まぁ、これにも理由があるんだが、聞く気はあるか?」
「聞くも何も、動けねぇよッ」
涙目の男に俺は説明を始めた。
「今から俺が闘志を込めた威圧を放つ。
手足を縛ったのは、行動されると修練にならないからだ。
主にその場から離れさせないための行動制限だな。
当然、攻撃を放ったりはしないから安心しろ。
それで何か違った感覚を掴めればおおむね成功だな」
「……そんなこと、できるのかよ」
「人による。
正直こんなやり方は邪道だが、日数も限られているし、何よりも俺がいなければ学ぶことも難しいと判断した。
一度覚えてしまえば個人で修練できるようになるから、体得だけはしないとな」
「ただここにいるだけでいいのか?」
「それじゃだめだ。目に見えない何かを感じ取るのが目的だからな」
剣を腰から外し、鞘のみを持つ。
刃物を持ったままだと意味が変わってくる。
それは闘気ではなく、放たれるのは殺気になるだろう。
それでは意味がない。
彼が本気で怯えてしまう。
ふぅとひと息をついて、俺はフランツに話しかけた。
「それじゃ、いくぞ?」
「あぁ! 何でもこいってんだ!」
「……冷静さを保てよ?」
そう言葉にして、俺は力を込めた。
 




