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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十七章 目覚め
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調査と追跡

 グロースクロイツ連峰。

 天高く(そび)えるように荒々しい山が東西の三国まで続く、世界でも有数の連峰だ。

 行く手を遮るほどの巨大な山々は来る者を拒み、凶悪な魔物が無数にのさばると噂されるも、その詳細を知る者は誰ひとりとしていないと言われる。

 それは眼前に広がるギーゼブレヒト断崖も同じではあるが。


 およそ900メートルは高さがあるだろうか。

 見上げれば首が痛くなるほどの巨大な断崖。

 直角にも思えるその角度からは、行く手を阻む壁にも見えた。


 様々な憶測が飛び交うこれらの場所は、一説によるとドラゴンの世界や死者の国に繋がっているとも言い伝えられているそうだが、根も葉もない噂に踊らされる者など俺たちの中にはいない。


 確かなのは、この先が死者の国でも龍種の住まう里などでもないことだ。

 彼女たちの種族は群れをなす習性があるわけでもないが、大きさや強さが目立つことなどからこれまで人目を避けて暮らし続けてきた。

 基本的に関りを持つことのない静かな生活を好む龍種は、確かに人里から遠く離れた場所に巣を作るが、ここから北にはないとレヴィアは話した。


「……もっとも、こういった場所の奥地には邪竜や腐龍がいることも十分に考えられるから、あくまでも我がいた里ではないとしか言いようがないが」

「レヴィア姉の故郷にいる龍さんたちは、この先の調査をしたりしないの?

 邪龍なんて、放っておけば何するか分かんないような危ない龍なんでしょ?」

「発見したとしても軽々しく手を出せぬよ。

 何せ気まぐれで世界を滅ぼそうとする上に、強大な力を持つ龍だからな。

 迂闊に仕掛ければ、争いの余波で世界の半分は消失しかねない被害を与える」


 レヴィアの大きさを考えれば想像するくらいはできるんだが、現実にそんなことが起こればいったいどれだけの生物が消失するか分ったもんじゃない。

 彼女のような穏健派が多いことに、人は感謝するべきだな。


 しかし彼女の話からは、少々聞き流せない言葉が含まれていた。

 それについて訊ねたところで、見上げなければ見えない角度の巨大な壁のような崖を越える手段など俺たちは持ち合わせていないのだから、進むとなれば違う方法を探す必要がある。


 それにもし邪龍がこの先にいたとすれば、色々と面倒なことになりかねない。

 確実に倒せると考えるのは危険だし、できなければ全滅しかねない以上は可能な限り不必要な戦いを避けるべきだ。


「ともかく、何か痕跡がないか調べよう。

 子供たちとエトワール、クラウディアとオーフェリアは馬車で待機して、残りは罠を含む何らかの手掛かりを探そう。

 クラウディアには御者をお願いするよ」

「はい、主さま」

「俺たちはスカウトの経験がないから、リゼット頼みになるかもしれない」

「最善を尽くします」


 当然、快く了承してくれた彼女だけに任せたりはしない。

 俺たちにも何かできることがあるはずだからな。


 少なくとも周囲の警戒や魔物の討伐くらいならできる。

 彼女が心置きなく調査できるように、俺も最善を尽くそう。



 スカウトに集中するリゼットは地面を調べ始めた。

 その真剣な眼差しは言葉通りの役割を担っているようだ。


「リゼット姉、足跡とかを探してるの?」

「正確には足跡を含む痕跡なんですよ、エルルちゃん。

 この周辺は人があまり来ることはないので、手掛かりがあるはずなんです」

「でもでも、今はいないけど動物とか魔物もいたんだよね?

 リゼットお姉ちゃんはどうやって見分けてるの?」


 首を傾げながらも鼻を使って何かを探ろうとするブランシェだった。

 そんな彼女にスカウトがどういったものかをリゼットは話してくれた。


 そもそもスカウトと一言で表しても様々らしい。

 大きく分ければ調査と追跡ができる者たちで分かれるそうだが、彼女はあくまでも遺跡などの調査を得意としているそうだ。

 つまるところ彼女は追跡が苦手で、基本的な知識くらいしかないと話した。


 それに魔物や人、動物の追跡だけでもそれぞれ専門家がいるらしい。

 彼女の場合は魔物に関しての知識は豊富だが、追跡が必要となる今回に限って言えばあまりお役には立たないと申し訳なさそうに答えた。


「私はスケルトンを見たことがありませんし、本音を言えば調べたこともありませんからどういった性質を持つのかも分からないんです。

 恐らくは骨の足だと仮定して調査をしていますが、もしかしたら気配を探る方が見つかりやすいかもしれません」

「……気配、か。

 そういえば、スケルトンは体から黒い霧のようなものを放っていたそうだな」

「はい。

 それが何かは分かりませんが、一種の魔力に似た何かだったのかもしれません」


 エトワールに視線を向けると、彼女は顔を曇らせながら答えた。

 アンジェリーヌがさらわれた時のことを思い起こしたんだろうな。

 大切な人を護れなかった自分が許せない気持ちは痛いほど分かるつもりだが、まずは彼女を無事に救い出してからにしたほうがいいと俺には思えた。


「深呼吸をして、心を落ち着かせたほうがいい」

「……はい、ありがとうございます」


 辛そうではあるが、深く呼吸をして落ち着かせるエトワールは、少しだけ微笑みながらお礼を言葉にした。

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