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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第三章 掛け替えのないもの
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揺るがぬ精神力

 修練に戻り、基礎訓練を続ける。

 素振りの仕方や体捌きなど、我流に近い彼らの動きは直すところが多い。

 中でも精神面では未熟さが色濃く出ていた。


 聞けばそういった修練はしてこなかったし、する者も少ないそうだ。

 ここに俺は、この世界の人が持つ技術の限界を知った気がした。


 何事も動じない冷静な判断力を持つのが理想だが、人である以上難しい。

 しかし焦りや油断といった危険に繋がる感情を極力削ぎ落とすことは可能だ。


 相手の思考を読み取り、次に繰り出す攻撃を予測する。

 そうならなかった場合も冷静に対応できる揺るがぬ精神力が必要になる。


 これは感覚的なものになるので、そう簡単に体得することはできない。

 俺も手にするまで数年かかったが、彼らには当てはまらないだろう。

 冒険者として命の危険に身を投じてきたことがここで活きてくる。



 修練を始めて二日目。


 それを証明するかのように、ある男に変化が生じた。

 わずかとも言える微妙なものに気がついた俺は言葉にする。


「最近、技術向上に伸び悩んでたんじゃないか?」

「え? ええ。それが僕の限界なのかな、とは頻繁に考えるようになりました」


 ライナーはどこか寂しげに答えるも、それは勘違いだと俺には思えた。

 訓練を中断し、他の3人を見学させてライナーに特殊授業を始める。


 彼を地面に座らせ、あぐらの上に木剣を置く。

 そのまま瞳を閉じさせて、視覚情報を遮断した。

 風の流れや音に意識を集中しながら心を平静に保たせる。


 これが何の修練になるのかとディートリヒ達は不思議に思っているだろう。

 だが座る彼だけは心が穏やかになっているのが手に取るようにわかった。

 静かに彼の背後へと回った俺はおもむろに持っていた剣を鞘ごと放つ。


 大きな音を立てながら、ライナーは背後からの攻撃を木剣で受け止めた。

 声を荒げるフランツに構わず、俺は今も冷静さを保つ彼に訊ねる。


「な!? なにが起こったんだよ!?」

「わかるか? 風の流れを。そよぐ葉のゆらめきを」

「……はい。不思議な気持ちです。

 とても静かな世界にひとりでいるような感覚ですね」

「そのまま周囲に気配を探ってみろ」

「…………」


 静かに見守る俺達。

 もっとも近くにいる3人は驚愕しているだろうが。

 しばらくすると、ライナーはゆっくりと瞳を開けて答えた。


「……これは、人の気配、ですか?」

「そうだ。初めは線のように見えてるんじゃないか?」

「はい。細い線のような優しい光が集まっています。

 ……あ。途切れてしまいました……」

「それをなるべく維持していけば、長時間その状態を保てるようになる」

「……これが……トーヤさんの見ている世界……」

「おそらく同じものだろうな。

 研鑽を重ねたものだから周囲150メートルほどまでなら感知できるし、見えている視界は線ではなくはっきりとした姿で映るが、努力次第で到達できると俺は思っている」

「……ど、どういうことなんだ、トーヤ……」

「見ての通りだ。

 ライナーも俺の見ている世界に足を踏み入れた」

「そ、そんなこと、現実的に可能なのでしょうか……」

「それを今、ライナーが証明した。

 むしろ命懸けで戦ってきた冒険者なら習得できるだろうな」


 驚愕する彼らをよそに、俺はライナーに訊ねる。


「戦闘中に弓をつがえたことはあるのか?」

「そんな危ないことはできませんよ。

 その間に敵が眼前まで迫ってきますから、ダガーで応戦します」

「だろ?

 弓は遠距離攻撃に使い、相手が近い場合は剣での対応を余儀なくされる。

 確かに遠距離でピンポイントに狙撃できる能力がすごい技術なのは間違いない。

 だが、それで倒せなかった場合、近接戦闘もできなければ非常に危ないんだ。

 ライナーは感覚的な能力に優れている。それは弓の技術を見れば明らかだ。

 なら、その方向性を近接攻撃にシフトすればいい。

 感覚と認識力を高めれば、さっきの動きが戦闘中にもできるようになる。

 その先に見えるのは相手の行動を予測できる、別世界とも言うべき場所だ。

 今はまだ1、2分間を維持するのが精一杯だと思うが、それも努力次第で徐々に増えるだろう」


 未だ信じがたい顔をしている彼らを軽く触発させるように、俺は言葉にした。


「その状態で長時間の戦闘を可能とすれば、弓士ではなく、"剣聖のライナー"が誕生するだろうな」

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