日々そうあるように
この中央広場は町でも人気がある場所だし、公園のような憩いの場を設けられているんだから自然と集まるのも分からなくはない。
色々あったせいか邪推してしまうが、考えすぎだな。
……俺も今回の件は精神的に疲れているようだ。
「あ!
上品で綺麗なお姉さん!」
「あら、ありがとう」
「……アンジェリーヌ様、ここは謙虚に答えるべきかと……」
「日々そうあるように心がけているもの。
小さなレディのお手本になれるのなら本望だわ」
美しい笑顔で女性は話した。
確かメイドはエトワールだったか。
相変わらず品の良さを感じさせる立ち振る舞いだ。
お嬢様のほうは仕草や話し方がエルルには魅力的に見えるんだろう。
もしかしたら"こうありたい"と思える女性の理想像なのかもしれないな。
憧れの女性に向けるようなきらきらと輝く瞳から、そう思えた。
「お姉さんたちは舞台を見に行くの?」
「これから食事を取る予定なの」
「アタシたちと一緒だ!」
「あら、そうなの?
それじゃあ、ご一緒しましょうか」
「いいの?」
どこか申し訳なさそうに訊ねつつも、そわそわした気持ちを抑えきれないエルルにアンジェリーヌは満面の笑みで答えた。
「もちろんよ。
せっかくまた会えたんだもの。
それに、食事はみんなでいただいたほうが美味しいでしょう?」
「ふむ、それもそうだな」
「そういえば、予約してるとか言ってなかったか?
急に大勢で押しかけたら迷惑になると思うんだが」
「予約といっても席だけだから、きっと大丈夫よ。
もし難しいなら時間をずらすか、お店を変えればいいわ」
「大人数でも席につける大きさの飲食店を3軒ほど存じております」
「さすがね、エトワール」
「ありがとうございます」
……不思議な魅力のある人たちだ。
これまで出会ったことがない感じがする。
商国出身だろうから、貴族じゃなくて一流商家の令嬢か。
ちらりとリゼットに視線を向けるも、どうやら彼女も知らないようだ。
となると、別の……なんて、詮索は良くないよな。
少し気が立ってただけに、失礼なことをしてしまった。
多少武術の心得があるのはエトワールのほうで、アンジェリーヌは一般人だ。
だが強い魔物を倒せるほどの強さは感じないから、指導者側から考えると不安ではあるが……。
話を聞くと、どうやら仕事の休暇でふたり旅を満喫しているらしい。
特にこの町は彼女にとって、バウムガルテンよりも魅力的なのだとか。
思えばあの町は迷宮都市だからな。
商人も多く足を運ぶが、そのほとんどは冒険者などの強さに自信を持つものたちばかりだろうから、純粋に魔道具を仕入れられる資金を持たないのであれば、商売としてバウムガルテンを訪れることはないと思えた。
思えば生活必需品に当たらない魔道具は、ラーラさんの店でしかゆっくり見られなかったような気がする。
特に俺たちの場合は、自力で手に入れたほうが遥かに高性能のアイテムを見つけられるからな。
何も大金払って"そこそこ性能"のアイテムを買い揃える必要もないし、装備を集めながら魔物と戦い続けることで修練にもなった。
色んな意味で迷宮に潜ることのほうが、メリットを感じるんだよな。
「お姉さんたちは、演劇を観たいんだっけ。
たしか明日から公演されるって言ってたよね」
「ええ、そうよ。
ずっと観たかった劇団の公演が明日からだなんて、まるで運命を感じるわ。
もう居ても立っても居られなくて、こうして町を散策していたの」
「アンジェリーヌ様は昔から待ち遠しいことがある度に、気持ちをそわそわとしながら町を歩かれていましたね。
最近ではお仕事に専念していたこともあってあまり見なくなりましたが、まるで幼少期に戻ったようで私もとても嬉しいです」
「そうなんだ。
なんだか意外かも」
落ち着かなくて歩き続けるってのは、俺にも経験があるな。
むしろ体を動かしていたほうが不思議と楽なんだよな。
がむしゃらに木刀を振ることも、最近はなくなっていた。
前ばかりに視線を向けるだけじゃなくて、たまにはこれまでのおさらいをしてもいいかもしれないな。