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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十六章 正しいと思う道を
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心が疲れて

 憲兵隊の本部を出た俺たちは、正面に見える中央広場のベンチに力なく腰かけている少女を見つけた。


 夕暮れに照らされたその背中は、まるで世界そのものが終わってしまうと悟った人を見ているようでいたたまれなかった。


「……みんなに提案があるんだが……」

「我もそう言葉にしようと思っていた」

「そうですね。

 みんなトーヤさんと同じ気持ちだと思います」


 念のため全員に確認を取るが、愚問だったようだ。


 ……そうだよな。

 誰だってあの子を放って旅に出るなんて、できないよな。



 近くで声をかけようとするとフラヴィは小走りで駆け、少女の隣に座った。

 力なく横に視線を向ける少女の瞳からは覇気が戻っていなかった。


 俺は彼女の活力まで奪ってしまったんだな。


 だとしても、今は目的を失っただけだと俺は信じたい。

 切欠さえ示せば、きっとまた前に歩いて行けると。


 こんな言葉も綺麗事に過ぎない。

 それでも、この子を独りにすべきじゃないのは確実だ。


「……オリアーナ」

「ううん、違うよ。

 わたしはフラヴィっていうの」

「……あなたは、あの時の……。

 ……そっか……オリアーナは……」

「あのね、お姉ちゃん。

 わたしたちと一緒にいよ?」

「……ぇ」


 無気力に小さく声を出した少女は、目をわずかに大きくした。


「……一緒に?」

「うん。

 わたしたちと一緒に、色んなところに行くの。

 きれいなお花をみんなで見たり、草原で足を伸ばしてみんなとお話したり、パパのおいしいごはんをみんなで食べたりするの」


 フラヴィは少女の手を優しく握りながら、満面の笑みで言葉にした。


「お姉ちゃんも一緒」

「……でも……」

「みんな、お姉ちゃんと一緒にいたいの。

 だから一緒にいよ?」


 しっかりと少女の瞳を見ながら話すフラヴィ。

 本当に優しい子だと心から思う。


 塞ぎ込んでいた少女の気配が、少しずつ戻っていくのを感じた。

 オリアーナは7歳だと言っていたし、フラヴィが妹に見えるんだろうな。


 俺が言葉にしても反応すらされなかったかもしれない。

 それほどに少女は非常に危うい状態だったと思えた。


 優しい言葉をかけてもだめだろう。

 でも、フラヴィの想いは届いた。

 それを素直に嬉しく思った。


「……一緒に、いて……いいの?」

「お姉ちゃんと一緒にいたいの」


 ぼろぼろと大粒の涙を流す少女を、ベンチから立ち上がったフラヴィは頬を寄せながら優しく抱きしめた。





 復讐することの全てが間違っているとは思わない。


 相手が人を人とも思っていないような外道なら、なおのことだ。

 その命をもって贖わせることで、救われる人も確かにいるはずだ。


 だが、たとえ極刑が執行されたとしても、失った人が戻るわけじゃない。

 そしてそれは、時間が解決するとは限らないと俺には思えてならなかった。


 大切な人たちを奪われたことの喪失感や恨みを含む負の感情は、年月を重ねれば重ねるだけ重く深く、まるで魂を抉るような痛みを感じるだけかもしれない。

 俺がそんな気持ちを抱かずに今を生きているのは、家族に恵まれたからだ。


 あの時、両親の遺影を前に呆然と座るだけの俺へ父が手を伸ばしてくれなければ、きっと俺も同じように抑えきれないほどの強烈な復讐心を持っていたと思えてならなかった。



 ……父さん。

 俺は、正しいことができたんだろうか。

 それとも、両親が悲しむような非道をしてしまったんだろうか。



 でも、正当化するわけじゃないけど、これが正しかったと思えるんだ。

 家族に顔向けができないような非道をしたかもしれないけど、それでも俺は、自分が正しいと思えた道を選べたと思ってるんだよ。


 それをあいつは、しっかり分かってくれると信じている。



「……ありがとう、フラヴィ……」

「うん!」


 優しい笑みでフラヴィは答え、少女の瞳に光が戻ったように思えた。

 それは復讐心が燃えたぎるような強烈なものでもなければ、悲しみに打ちひしがれている暗い色でもなかった。


「ようやく、普段の姿が見られた気がするよ」

「……よくわかんない。

 でも、少しだけ落ち着いた。

 フラヴィのおかげ」

「そうか」


 安堵から頬が少しだけ緩んだ。

 きっともう大丈夫だろう。

 楽観的だが、不思議とそんな気がした。


「……私、オーフェリア・スーウェル。

 ……よろしく」

「あぁ、よろしくな」

「……おなか……すいた……」


 たくさん泣いてたし、これまで食事なんて取ってなかっただろうから、そりゃ腹も減るだろうな。


 でも逆に言えば、空腹を感じるほど落ち着いたってことになる。

 それが俺は嬉しかった。


「あたし、エルル!

 よろしくね、オーフェリアお姉ちゃん!」

「ん。

 よろしく」

「アタシ、ブランシェ!

 美味しいお店でごはん食べよ!」

「ん。

 食べる」

「……随分と口数が減ったな……」


 思わず言葉に出てしまった俺に立ち上がったオーフェリアは、静かに答えた。


「これがいつもの。

 あの時は怒りでどうにかなりそうだった。

 一生分話したから、もういい。

 ……すごく疲れた」

「そ、そうか……」


 まぁ、少しだけでも落ち着いたみたいだし、それでいいか。



 青々とした空を見上げると、先ほどとは違った色に見えた。

 俺も随分と心が疲れていたのかもしれないな。


 正直に言えば、もう二度とあんな連中とは関わりたくない。

 さすがに別の狂人と遭遇したりはしないはずだが……。


 そんなことを考えている時だった。


「……あら?

 あなたたちは先ほどの」


 視線を向けた先にいたのは、エルルとぶつかりそうになった女性とお付きの人だった。

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