時を止める能力
翌日、俺達は店の裏庭で修練を始めた。
店の準備と清掃は朝早く終わらせ、食事を済ませた頃に彼らがやってくる。
そのまま訓練を始め、昼食を6人で取り、休憩を挟んで再び修練。
夕食を済ませてから別れ、店内の清掃と明日の準備をする。
この合間にラーラの都合に合わせ、この世界の知識と常識を学ぶ。
これを繰り返すことにした。
彼女から習うべきことはとても多い。
できるなら魔導具についても色々聞きたいと彼女に話すと、ラーラは嬉しそうな表情を浮かべながら答えた。
「もちろんいいよ。
なんなら生活魔法と一緒に魔導具の作り方や、その見分け方まで教えちゃうよ。
魔導具が作れるようになると楽しい旅になると思うの。
材料はちょっと特殊なものも多いし工具もそれなりに必要だけど、オリジナルの魔導具を作れるってとても楽しいのよ」
その気持ちは俺にも分かるような気がする。
何を作り出せるのかも分かっていないが、旅を楽しむための幅は広がりそうだ。
それについても余裕があれば習いたいと彼女に話し、それをラーラはとても嬉しそうに了承した。
まず最優先は世界の常識と魔導具について、次に生活魔法と魔導具製作を聞く。
生活魔法も身体や物を綺麗に保つことができるものは必須だ。
野営で風呂に入れない以上、衛生面でも精神面でも必ず役に立つ。
闇属性魔法は街中で使うのは危険だ。
何が起こるか分からないし、上手く扱えるのかもわからない。
加減がわからず暴発する可能性もある以上、街の外で試すべきだろうな。
修練方法は少しずつ覚えていけばいいんだろうが、気になることがひとつある。
どうやらそれは俺だけじゃなかったみたいで、フランツは戸惑いながら訊ねた。
「……で、ラーラさんはここにいてもいいのかよ」
「大丈夫よ。お客さんが来たらわかるから、気にしないで。
なんなら木に隠れながら、心配そうな視線でも向けよっか?」
「余計に集中できねぇよ……」
「ここからでもドアベルの音が聞こえるのか?
来客者がわかるとは思えないんだが」
ディートリヒは訊ねるも、さすがにそれは難しいと彼女は答えた。
だが、それを可能とするものを彼女は所持しているようだ。
「んふふ~。そのためのスゴアイテムがうちにはあるのだよ!」
エプロンの腹部についているポケットを両手でごそごそと何かを探すラーラは、ひとつの小さな道具を取り出して右手で空に掲げ、声に出した。
「ばんのーアラームぅ~」
未来から来た猫型ロボットみたいな声色をあげるラーラは、どうやら周囲の時を一定時間止める能力を持つらしい。
そんなことを考えていると、彼女はとても楽しそうな表情で説明を始めた。
「いいかい、トーヤ君。
このアイテムは、お客さんが来たらすぐに『侵入者アリ! 侵入者アリ!』
あらあら、丁度お客さんみたいね。ちょっといってくるわ~」
楽しそうに謎の鼻歌を歌いながら、彼女は風のように店内へ向かった。
「……んだよ、今の……」
「……防犯用のアラームだったな……」
固まりながら俺達は、しばらく冷静な判断力を失ったまま立ち尽くした。