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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十六章 正しいと思う道を
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忘れてはいけない

 憲兵隊が到着したのは、それから間もなくのことだった。

 どうやら男の異質な気配に当てられた者たちが詰め所に押し掛けたらしく、犯罪者リストのようなものから男を特定して捕縛しに来たようだ。


 こんな危険人物がまともな経歴を持っていることなどありえない。

 出入り口を憲兵隊が囲い込んだ様子から見ても、相当の大事になっていた。


 思えば、街門を通れたとも考えにくい。

 地下道や下水道のような場所から侵入した可能性が高いから、その辺りの聴取も同時に進めているんだろうな。



 舞台上で少女や俺が出てきた時までは、客席参加型の演劇かと思っていた者も少なからずいたと思うが、さすがにフラヴィの登場で一気に空気が変化したのは俺にも分かっていた。


 それでもパニックにならなかったことは、奇跡だったとしか思えない。

 今回の一件は俺も対応に困ったし、実際まともに対処できていなかった。

 下手をすれば最悪の惨状になっていた可能性も高かっただろう。


 それを忘れてはいけない。

 死傷者を出さずに済んだからといって、素直に喜んではいけない事件だったことも俺は肝に銘じる必要がある。


 そういった意味では正しい行動が取れたと言えなくもない。

 しかしそんな言葉で締めくくれるほど、単純な話ではなかった。



 事情聴取を終えた少女の瞳からは覇気が感じられず、気力そのものを根こそぎ奪ってしまったような姿に見えた。


 それをしたのは他の誰でもない俺だ。

 俺が彼女の"目的"そのものを、まるで破壊するように砕いてしまった。


 彼女にとって、それがどれだけ大切なものだったのだろうか。

 使命感にも通ずるような想いを抱え込んでいたのだろうか。


 俺は、余計なことをしてしまったのかもしれない。

 それでも、そうならなくて良かったと思う自分もいる。


 何が正しくて間違っているのか。

 基準としてみられるのは、その国の法と本人のモラルだ。

 その点を考慮するなら、俺の行動は間違いじゃない。

 この国は自由を何よりも大切にしているが、基本的に復讐は認められていないのだと憲兵隊の調査官に聞いた。


 曖昧なものに聞こえるが、やはり最終的には自分自身が選んだ答えが犯罪でない限りは許されるようだ。


 復讐を果たしたからといって、どうなるものでもないとは思うが……。



 当然の結果だが、危険人物は留置所に放り込まれた。

 むしろその場で斬られても文句が言えないと、憲兵隊の大隊長であるルッツは苛立ちを押さえ込みながら言葉にした。


 捕縛する直前、最後の悪あがきと言わんばかりに"マナチャージクリスタル"の使用を試みた男だが、筋力も魔力も激減させた状態で使えるはずもなく、目を丸くしたまま言葉にすらなっていない叫び声を上げながら、あえなく御用となった。


 どの道、効果が出るまで時間がかかるアイテムみたいだし、"ステータスダウンⅣ"を当てた時点ですべてが終わっていたんだけどな。


 それでも何かを使おうとすれば俺自身が止めていた。

 もう二度と、あんなやつに人の命を奪わせたくないからな。


 少なくとも被害者はこれ以上出ないだろう。

 それを良しと考えられない俺も確かにいるが、あまり深く考えても沼にはまるだけかもしれないな。


 ともあれ、弱体化させたステータスを戻すことはしないし、するつもりもない。

 あんなやつ苦しめばいいとは思わないが、最低限は自分がしたことについて考え、悩んでほしいと思えるが……。


 それができれば、そもそもこんなことにはなっていないんだ。

 この思考も俺自身の甘さから来るものなのかもしれないな。

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