ずっといいと思えるんだ
たとえそうだとしても割り切れるものじゃない。
そんな簡単に割り切れるほど、人の心は単純じゃないんだから。
人の命が、それも大切な家族を奪われたんだ。
そう簡単に答えなんて出せるはずもない。
それが当たり前なのかもしれない。
……それでも。
「不幸を呪うよりも、笑って生きる方が少しだけ楽だと俺には思えるよ。
前を向いて、少しだけ楽しいと思える道を歩いた方がいいんじゃないか?
笑っているほうが、大切な家族が笑顔になってくれるんじゃないか?」
そう思うのは俺だけかもしれない。
彼女の置かれた境遇から察すれば、俺とは比べられないくらいの衝撃だったのかもしれない。
誰だってそんな不幸、そう簡単に受け入れられるはずがない。
生涯悩んで、苦しみながら、それでも生き続けなきゃいけないのかもしれない。
それはきっと、人によっては何よりも最悪な、生き地獄になりかねない。
だからこれは詭弁だ。
綺麗事を並べられるのは、俺が幸せだったからだ。
この歳まで大切に何不自由なく育ててもらえてたからだ。
……俺にはそんなことを言う資格なんて、本当にないんだろうな。
だとしても、このままだと不幸が続くだけのような気がしたんだ。
あのまま俺もフラヴィも静観していたら、この少女は不幸になるんじゃないか?
復讐の悪意に囚われ続けるように。
抜け出せない沼地を闇雲に彷徨い続けるように。
目的を遂げたとしても、不幸になると思えたんだ。
悲しみに暮れる少女を救えるのかは分からないけど、それでもこのままよりはずっといい。
ずっといいと、俺には思えるんだ。
思えば俺のいた世界は、そんなことばかり起こっていたような気がする。
これまであまり考えなかったけど、不幸は何も事故だけじゃないんだよな。
この少女みたいに最悪な体験をした人も、少なからずいるんだよな……。
今の俺を見て、両親はどう想うのだろうか。
誇らしくは思えなくても、それでも安心して見守ってくれるだろうか。
俺には正直なところ分からないし、それを知ることはない。
でも、今を生きられているって意味ではずっと幸せだ。
それだけは確かだと、俺には思えるんだ。
「おとうさん……おかあさん……オリアーナ……」
堰を切ったように感情があふれ出した少女は、声をあげて涙を流し続けた。
家族を惨たらしく殺した相手を前にすれば、俺ならそいつを許せるんだろうか。
怒り狂い、叫びながら命を奪うことを躊躇わずに襲いかかるんじゃないか?
それを他人に止められたら、そいつも敵に思えるかもしれない。
そいつごと、すべてを消し尽くそうとすることだって考えられる。
……けど、あんたは違うんだな。
それでも違う道を探そうとしてくれるんだな。
本当に凄いと素直に思えるよ。
強くて、家族想いで、何よりも優しい。
極限とも言えるほど大変な目に遭ったのに、それでも自分ではなく大切な誰かを想えるんだな。
今の姿を見たら、きっと家族は誇らしく思ってくれるんじゃないか?
名前も家族も知らずに勝手なことを言うけど、俺にはそう、思えたんだよ。
だからもう、復讐なんてするべきじゃない。
こんなことにはもう関わるべきじゃない。
たとえ割り切れなかったとしても、きっとこの先、笑顔になれると思うから。