包み込む光
その人は、颯爽と私の前に現れた。
瞬きする間にやってきた男性に、内心ではすごく驚いた。
それだけ外道しか見えていなかったのかもしれない。
眼前に佇む人が敵じゃないのは分かる。
私を護るように背中を向ける姿も、悪感情を外道に放つ様子も。
敵対している対象が誰なのかは確認せずとも明らかだ。
それでも、今の私にそんな余裕はない。
悪態をつくように、抱えている感情のまま言葉にした。
「――邪魔を、するな」
……違う。
そうじゃない。
この人は、そんな人じゃ……。
この状態が異常なのは、私自身が理解しているつもりだ。
どす黒く纏わりつくような悪意の塊が胸の奥底からあふれ出す。
きっとこれがエレオノーラさんの言っていたものなんだろう。
これほどまで重々しく制御できない力だとは思っていなかった。
力を託してくれたことに後悔なんて微塵もないけれど、それでもせめてあの外道をこの世界から消し去るまでは体が持ってほしいと心から願った。
吐き出すように続けて悪意を放つ。
徐々に体を蝕むこの状態を維持し続けてはいけないと言われている。
けれど、抑え込むことができない以上は、早急に決着をつける必要があった。
だからかもしれない。
暴走するように急いた感情が口から出てしまったのは。
「……消えろ。
お前も殺すぞ」
違う、違う!
そんなこと、言葉にしては駄目……。
この人は、私のことを……。
自分の感情を抑え込むことすらできない私を……。
どうしようもなく馬鹿な発言をした私を……。
どうして、そんな……悲しそうな瞳で、あなたは見るの……。
「悪いが、ここからは俺が相手をさせてもらうよ。
"ステータスエフェクト・カームダウンⅢ"」
穏やかな優しい声と温かな光が私を包み込む。
まるで心が癒されていくようなこの感覚は……。
彼の発言と同時に、へばりつくような悪意が落ち着きをみせた。
力の維持もできなくなり、その場にぺたんと座り込んでしまった。
何をされたのか正確には分からないけど……助けて、もらえたの?
そうでもなければ、これほどまで心が落ち着くとは思えなかった。