そこにあるのなら
決意を固めたようにディートリヒは言葉にした。
だが話はそう単純ではない。
鍛えれば激変するようなものではないのだから。
「みんなを鍛えるのは構わないが、そうそう変わるものじゃないぞ?」
「分かってる。だから修練方法だけでもいい。あとは俺達自身で強くなる」
「ま、短期間でそれほど強くなれるわけないからな。気長にやるさ」
「そのためにもトーヤさんの訓練法を僕達に教えていただきたいんです」
「お勉強の合間で構いません。どうかお願いできませんか?」
思わず家主へ視線を向けてしまう。
勉強をするにしても有限だし、何よりも訓練をする場所も限られる。
人目につかない場所でしなければならないだろう。
そんなことを考えているのも理解されていたのか。
まるで俺の気持ちをすべて理解しているような優しい笑顔で彼女は答えた。
「そうねぇ。
トーヤ君がこの世界について学び終えるまで、7日は欲しいわね。
訓練はお店の裏庭を使うといいわ。人通りも極端に減るし、もってこいよ」
それだけあれば彼らの修練も形になるだろうと判断したのか。
少し長めに期間を決めてくれたのも理解できるが、ひとつだけ確認しなければならないことができた。
「7日もここで厄介になっていいのか?」
「あら、私は大歓迎よ。
美味しいものを毎日食べられ、じゃなかった、みんなの安全のためだものっ」
「……いまの言葉は深く考えないことにするよ、ラーラさん……」
「そう? ありがとね、でぃーちゃん」
「まぁ、食事を作るのには慣れてる。
それなりのものでよければ俺が作るよ」
「ほんと!? やったぁ!! じゃあついでにお姉さんと結婚「しないぞ」
むぅ……手ごわいわね。どうやったら牙城を崩すことができるのかしら……」
「話が戻っちまったな……」
フランツの言葉を同意するように俺は軽くため息をつくと、話を戻した。
「俺がみんなに教えられるのは基礎的なものだけだ。
それ以上を求めるとなれば、軽く半年はかかる」
「十分だぜ! それでも俺らにはプラスになる!」
「だな。あとは俺達で何とかするさ」
決意を瞳に宿す4人に、俺は一言『わかった』と答えた。
技術やその方法を彼らに教えることは俺も望んでいた。
しかし、実際にどれだけ変わるかは彼ら次第だ。
あまり技術を得られないかもしれないし、学べないことだって考えられる。
その判断は今の俺につくことではないが、それでも期待を持ってしまう。
彼らの瞳に映った、とても強い意思を肌で感じるからだ。
もしそれが揺るがない覚悟なら、彼らの強さが劇的に変化するかもしれない。
とても曖昧と言えるようなものを、俺は心のどこかで予想しているのだろうか。
やる気ではなく、確固たる意志がそこにあるのなら、1週間という短い期間でも体得できる技術があるかもしれないな。
 




