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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十六章 正しいと思う道を
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ある種の世界一

 そこはまるで古代から変わらない姿を保ち続けているようにも思えた。

 すり鉢状に作られた観客席から見下ろせる大きな舞台はとても見やすく、古の神殿を連想するような建物が豪華な背景として建設されていた。


 舞台の前には開けたスペースが設けられ、恐らくは音楽や合唱などで作品に彩を添えることができるようになっているんだろう。


 その姿はさながら古代ギリシアの劇場。

 不思議とこの場所だけが時代から取り残されたとも、ここだけ時が止まっているとも思わせる、感慨深いものがあった。


「……すごいな、これは。

 想像していたのとは随分違ったよ」


 正直、これほど立派な造りだとは思っていなかった。

 もっとこう、こじんまりとした舞台だと。


 逆に言えば、だからこそ"観るだけじゃない"と露店の女性は言ったんだろう。

 これほどまでに本格的な舞台を無料開放しているともなれば、世界中の演者や劇作家、音楽家などが集まるはずだ。

 バウムガルテンは迷宮で有名だが、こんな近くに"ある種の世界一"と思われる場所が存在しているなんてな。


 これも自由都市ならではってことなんだろうか。

 それとも、世界中に芸術が溢れているんだろうか。


 古き良き時代を感じさせる舞台を見つめながら、俺はそんなことを考えていた。


「席は結構空いてるんだね。

 お姉さんが言ってた劇団は明日みたいだし、いつもはこんな感じなのかな」

「どうだろうな。

 若手育成にも力を入れている町だし、公演まで少し時間があって、まだ人が集まらないだけかもしれないぞ」

「ふむ。

 生身で別の者を表現するとは、面白いことを考える」


 ……生身って言い方は気になるが、突っ込むこともないか。

 レヴィアもリージェも、こういったこととは無縁の暮らしをしていたからな。

 相当珍しいと感じる気配がはっきりと出ていた。


「演目が何かは分からないが、無料で毎日いくつも公演してるみたいだから、好きな人にはたまらない町なんだろうな」

「わたしも楽しみ。

 どんなの見られるのかな」

「面白い作品だといいな」


 とても楽しそうに話すフラヴィに、俺は答えた。


 思えばこの子も含め、みんな娯楽とは無縁の暮らしをしてきたからな。

 いくら問題事があったとは言っても、こういった余暇を過ごすのはとても大切だし、今後はもっと時間を有意義に使ってあげたい。


 そのひとつが演劇になれば嬉しく思うし、過激な内容は夜に公演されると聞いたから、この時間帯は全年齢対象の作品が見られるはずだ。


「みんなはどんなのが見られると嬉しい?」

「あたしは勇者さまとお姫さまの恋物語かな」

「わたしはみんな笑顔になれるのがいいな」

「……お肉」


 ひとり前衛的な舞台を所望してる子がいるな……。

 あれだけ食べてお腹も膨れ上がってるのに、まだ肉が食べたいのか。


「大丈夫か、ブランシェ」

「……うん、まだいける……けふっ」

「さすがに食べすぎだぞ。

 しばらくここで休めるから、動かずにゆっくりしような」

「……うん」


 舞台の内容次第では爆睡するかもしれないな。


 暴食気味だが、どちらかと言えば本能的に食べ物を欲していたようにも思える。

 それもここ最近になってから急激に食べる量が増えているからな。

 体がそれを求めているんだとしたら、本当に成長するかもしれない。


 人の姿をしていればそれほど大きな変化はないが、オオカミの姿に戻ったらいったいどれだけ巨大になるのか分からないくらい育ちそうだな。

 俺と同じ年齢まで大きくなることも考えられるし、興味も尽きない。


 体に負担がかかってなければいいんだが……。

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