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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十六章 正しいと思う道を
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願いではなく覚悟

 中央部へと続く道を歩きながら、町並みを楽しむように俺は視線を向けていた。

 同じ国ではあるが、このフュルステンベルクは随分と違った印象を持った。


 そのひとつが露店の数だ。

 この町では簡易的な露店を出すのが一般的で、多少の風雨くらいは凌げる程度の小さな店が中央区へ続くように並んでいる。


 お祭りのような造りに惹かれているんだろうな。

 瞳を輝かせた子供たちは興味を持った露店に足を運びながら、とても楽しそうに話していた。


 常に3人一組で行動する姿は、本当の3姉妹みたいに見えた。

 仲のいい子供たちを見ているだけで幸せな気持ちにさせてくれた。


 その感覚は俺だけじゃなかったようだ。

 町の雰囲気に心を躍らせながらもリージェは言葉にした。


「とても楽しげな町ではあるのですが、子供たちを見ているだけで幸せですね」

「我も似たようなことを考えていた。

 あれだけ楽しそうな表情を見ていると、あの子たちのほうに視線が向く」

「本当に可愛いですね、あの子たちは。

 日に日に愛おしさが増していくような、とても温かな気持ちになります」

「そういえば、クラウディアはまだ15なんだよな?

 俺が暮らしていた場所から言うと、はしゃいでいい年齢だと思うぞ」


 暮らしていた場所なんて不思議な表現に思わず笑ってしまうが、あまり人の多いところで目立つような言葉は使えないからな。

 違った意味で俺は注目されやすいし、どんなに気を付けていても絡まれることはあるかもしれないが。


 特に酒が入った大人は聞く耳を持たないことも多いと聞く。

 "酔う"感覚が分からない俺には理解できない行動だが、十分に気を付けるべきだろうな。


「私としては、こうしているだけで幸せに思います。

 姉妹がたくさんできましたし、主さまだけじゃなく、みんなを護りたいと願っていますので」

「そうか」


 クラウディアの言葉に笑みがこぼれた。

 ……俺としては、普通の仲間として同行してもらいたいが。


 控えめな言い方をされたが、実際には随分と意味が異なる。

 それも含めて真っすぐな彼女のいいところなんだろうな。


 クラウディアは"みんなを護りたいと願っている"のではなく、"必ず護りきると強く誓っている"が正しい意味になるだろう。


 願いではなく覚悟。

 それは決定的に違う。

 質が異なるとも言える。


 "忠義"と言えば、日本人なら聞こえが良く思う人もいるかもしれない。

 しかしそれは結局のところ"主従関係"に他ならない。


 俺としてはそういった関係に否定的なんだよな。



 バウムガルテンで色々と話し合ったが、本人がそれを強く望んでいることや、俺自身が主従関係として扱わなければ問題ないだろうと、半ば折れる形で収まった。

 そういったことも彼女の自由だろうし、今はひとまず落ち着いているからな。


 いつ暗殺者が報復してくるのかも分からない現状だと言えなくもない。

 しかし、頭が切れる奴ならそんなことに戦力を割くよりも決起に備えるはずだ。


 それがいつになるのかは正直なところ分からない。

 文書としては正確な日時が残されていたが、本拠地を潰されたことで大きく加筆修正が加えられるだろうから、連中の上によほどの馬鹿がいない限り開戦はまだ少し先になりそうだと思えた。


 その隙を狙い、立て直す前に暗殺ギルドを壊滅させることができるかどうかが、世界の安寧に直結するだろう。


 正直、丸投げしていることに申し訳なく思う。

 それでも今はヴィクトルさんたちに任せ、俺たちは気ままな旅に戻っていた。


 時が来れば、俺もこの国のために戦うのもやぶさかではない。

 これまで訪れた町で良くしてくれた人たちは多いし、何よりも存在意義すら理解できない馬鹿どもに子供たちの笑顔を曇らせられることは絶対に避けたい。


 まぁ、本拠地をほぼ単独で潰したと思われる可能性も高いからな。

 それならそれで、俺も冷徹な対応でもって応えればいいだけだ。


 大きな問題が起こればテレーゼさんから水晶を使った連絡が来るだろう。

 そういった意味で言うのなら、連絡が来なければ俺たちは自由な旅をしながら穏やかな日々を過ごせるってことになる。


 今はエルルの家と家族を探す旅を続けたい。

 その先がどうなるのかはまだ分からないが、今の状況がいいとはとても言えないからな。


 会える家族がいるんなら、その人たちと離れちゃいけない。

 小さな子供ならなおのこと一緒にいるべきだ。


 ……それだけは、間違いじゃないんだ。

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