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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十五章 笑顔で歩いて行けるように
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断れなかったんだ

「あ、おかえりなさ~い」

「おかえりなさいませ、主さま」

「ただいまラーラさん、クラウディア」


 笑顔で迎えてくれたラーラさんとクラウディアだった。

 修練のためとはいえ、クラウディアが到達できない階層に向かうのでラーラさんの店に残してきたが、俺としてはできる限りしたくないんだよな。

 その点、しっかりと理解してくれている彼女のほうが俺よりも大人に見えた。


「ひとりだけ残して悪かった。

 明日からはまた気配察知や基礎技術の修練に戻ろう」

「ありがとうございます」

「ラーラさんも協力ありがとう」

「それはまったくかまわないのだけれど……」


 俺たち家族の後ろにいる4人の姿が視界に映ると、驚いた様子でラーラさんは訊ねた。


「……どうしたの、4人とも。

 修行の成果、出せなかったの?」

「いや、そうじゃないんだよ」

「――った……」

「……ふーちゃん?」


 フランツの絞り出すような言葉に首を傾げるラーラさんの耳に届いたのは、どうやら予想外のものだったらしい。


「……クリアしちまった……。

 ……83階層……俺たち4人だけで……」

「……わぉ……」


 さすがのラーラさんでも驚愕する内容みたいだな。

 聞きなれない言葉を小さく放ちながら、喜んでいいのか分からずにいる微妙な表情で彼らを見つめた。


 休み休みでも通路を開けては休憩をしつつ狩り続け、4人という驚異的な少人数で83階層を突破した彼らは、あまりのことに放心したままロビーからここまで帰ってきたわけだが、できれば周りの目も気にするくらいの配慮は残しておいてほしかったのが本音だな。


 まるでグールのような歩き方をする4人に注目が集っていた自覚はなさそうだが、あまり目立つ行動をすれば噂を聞きつけたレオンハルトが俺を探す可能性もあるからな。

 個人的には直接話をしてみたい気持ちもないわけじゃないが……。



 そもそもあの階層は確かに魔物の数こそ多いが、対処法さえしっかりと取れるようになれば攻略は問題ない。


 たしかに異常な数のグールが階層全体にあふれている。

 囲い込まないとしても、どことも分からない場所から集団でゆっくりと押し寄せてくる姿はホラーに思えてならないほどの恐ろしさを感じたが、それも確実に前へ進めば必ずゲートまで届くんだからな。


 マナポーションでMPを回復させながら進んでいたことを考えれば、彼らだけでの攻略は少し厳しいと思えるが、それは些末なことだ。


 彼ら自身の力で先を目指し、ついに成し遂げた。

 これが何よりの収穫だ。


 グールを掘り進めるように(・・・・・・・・)前へ向かう姿は、(はた)から見れば中々衝撃的な姿だろうけどな……。


 *  *   


「――これが顛末だな。

 それぞれの連携も自然とできていたし、魔力切れからマナポーションでの回復も安全にカバーしていたところから見ると成功と言っていいと思うんだが、戻りのゲートに入る手前からずっとこんな感じなんだよ……」


 虚ろな目でかたかたと小さく震える4人はお茶を飲むが、味や香りが分からないんじゃないだろうかと不安になる表情をしていた。


「まぁ、そのうち戻ってくるだろ。

 それよりも大丈夫だったか、ブランシェ」

「……うん……」


 ……大丈夫って顔をしてないな。


 この子は人の姿をしているが、フェンリルの特性もしっかりと持っている。

 そもそもオオカミはイヌ科だし、魔物だとしても嗅覚は猫の魔物以上のはず。

 あんな腐臭が漂う場所を歩くのはこの子にとって苦痛でしかないと分かってた。


 それに今回、戦闘に参加しなかったことも影響しているんだろう。

 嗅ぎたくも香りが鼻を突き抜けていくんだから、相当辛かったのは間違いない。


 だとしても、たった1階層でこうなるとはさすがに想定外だった。

 動けば少しは気が紛れていたのかもしれないが、後の祭りか。


「クラウディアと待っててもよかったんだぞ」

「……いっしょがいい……」


 表情を変えることなく、はっきりと言葉にした。


 ……ずっと一緒だったんだもんな。

 大きくなったとはいえ、引っ付いて寝るのが習慣になってる子なんだから、そう言うのも分かってたよ。


 だから『一緒に行く』と言葉にした時、俺はどうなるのかも予想していたのに断れなかったんだ。


 たとえ辛い想いをしても、離れるくらいならって。

 そう思ってくれているのが分かってたから、断れなかったんだ。


 ……ごめんな、ブランシェ。


「何かブランシェの好きなものを夕食に作るよ」

「……うん。

 ありがと、ごしゅじん……」


 少しだけ元気を取り戻したブランシェは、わずかに口元を緩めながら答えた。

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