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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十五章 笑顔で歩いて行けるように
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ひしめき合う階層

「……いよいよだな」

「……あぁ」


 緊張が走る彼らは、少し体が硬くなっているように思えた。


 だが、それも仕方のないことだと思う。

 修練に入ってからゴブリン以外は実戦らしい実戦はしてこなかったし、何よりも彼ら自身が強くなったと自覚できていない。

 精神的な圧迫感があっても不思議なことじゃないだろう。


 だから続くライナーたちの言葉も、至って自然のものだったのかもしれないな。


「……僕たちに……できるでしょうか……」

「……ゴブリンではその感覚を掴めましたが、さすがに不安、ですよね……」

「あとは実戦あるのみだよ。

 けど、機は熟したと俺には思えたからここに来たんだ。

 みんながしてきた努力は必ず発揮できると確信してるよ」


 その言葉に4人は顔を見合わせながら頷いた。


 緊張、不安、焦り、迷い。

 表情だけじゃなく、気配からもはっきりとそれを感じ取れた。

 研鑽を続けてきた努力が無駄になるかもしれないと思っているんだろう。


 だが、そのどれもが取り越し苦労だ。

 どれだけみんなが努力してきたか、俺はしっかり見てたからな。

 だからみんなが感じている不安のすべては、すぐに拭い去れるはずだ。



 迷宮83階層。

 つい先日まで歴代最高到達階層と言われていた場所だ。

 大量なんて言葉では生ぬるい、凄まじい数の魔物がひしめき合う厄介な階層で、進むだけでも相当の技量を要求される。


 おまけに89階層までこういった大量増殖された世界がひたすらに続くため、並の冒険者では突破するのはもちろん、フロア半ばまで進むのも困難を極める。

 魔物の知能の低さから、冒険者を囲い込んで襲う手段を取らないのがせめてもの救いではあるが。


 しかし、魔物を1体でも倒すことすら厳しいと経験者からは言われている。

 構造上の理由から大規模編成での攻略が難しい点や階層の深さもあって、最近では挑戦する者すら珍しいそうだ。



 ゲートからしばらく進んでいると、問題のそれらと遭遇した。

 足を引きずりながら行く当てもなく彷徨う集団が視界に移った。


 ゾンビ、リビングデッドと続く、アンデッド系モンスターの中位種"グール"。

 動きは非常に遅く、攻撃も単調な上に威力もかなり低い。

 言ってみれば、適当に歩き回る的のような存在だ。


 問題はその耐久性と、攻撃しても動じない"重さ"だ。

 さらにグールはリビングデッドよりも強固な上に重量がある。

 斬っても斬っても倒せないどころか、何事もなく襲ってくる性質を持つ。


 一般的に知られている情報では、だが。


「すべては"自己強化"による直接的な武器ダメージを激減させるところにある。

 実際にグールの体力は高い印象を持ったが、それも誤差の範囲なんだよ。

 今のみんななら、これまでと違った世界がはっきりと広がっているはずだ」


 そう言葉にすると意識をグールどもに向けながらも、しっかりと戦うための準備を始める4人だった。


「……あぁ、分かるよ。

 こんな世界を体感できるなんてな」

「……本当にすげぇな、これは」

「……ですが、"流れ"は随分と早い印象ですね。

 敵の強さによっても変化する、ということでしょうか」

「……あれほどまでに"流れ"が速いと、とても弓では対処ができませんね」

「そういった意味でも弓の扱いは難しいんだよな。

 確実に仕留められるなら遠距離に攻撃できる点も含めて十分強いと思うんだが、残念ながらそういった敵ばかりじゃないからな」


 弓とは本来、獲物に気付かれる前に仕留める"狩り"のための道具だ。

 槍や石を投げていたところに登場した時代では最高の武器だったが、それも遥か昔の話になる。


 特にこの世界には魔法があるからな。

 練度を高めれば弓矢よりも精度が上がりやすい傾向を感じる。


 これだけあふれ返る魔物をまとめて射貫くとなれば、エルルの技術と魔弓が合わさって完成させた"千本の矢(サウザンド・ショット)"を使わないと倒せないが。


 ……逆に言えば、条件が揃ったエルルなら単独でこの階層をクリアできるって意味になるんだが、これはさすがに言わないでおこう……。

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