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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十五章 笑顔で歩いて行けるように
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圧倒できる強さにまで

「うぉおおッ!?

 あっぶねぇ!!」

「集中力を切らすとそうなる。

 体に纏っている魔力はほどほどだが、防御力は低いんだ。

 いくら相手の攻撃が弱くても当たれば怪我するぞ」


 修練を始めてしばらくして、彼らは魔力による身体能力強化を体得した。

 しかし、これは驚くべき成長速度だとは言い難い。

 気配察知の鍛錬を怠っていなければ、すぐに使えるようになると思っていた。


 問題はその先。

 身体能力を魔法で向上させた後の修練になる。


 *  *   


「……そんだけでいいのかよ?」

「やってみると分かるが、これは結構難しいぞ」

「トーヤさんがそう言うなら、僕たちも気合を入れるべきですね」


 素直に頷く3人だが、フランツはまだ疑問に思ってるみたいだな。


 その気持ちも分かる。

 俺が指示したのは4つだけだ。


 武器を構えず、こちらは攻撃しないこと。

 ヒュージゴブリンの攻撃を避け続けること。

 気配察知を使い続け、周囲の警戒を解かないこと。

 そして、魔力による身体能力強化を薄く伸ばしながら(・・・・・・・・)維持することだ。


「それだけで強くなれるとは思えねぇけど、トーヤが言うんならそうするぜ!」


 フランツがそう言葉にしたのは10分ほど前のことだ。

 そんな彼は必至な形相でゴブリンの棍棒を避け続けていた。


「うぉッ!?

 かすった!!

 いま、かすったぞ!?」

「常に周囲の警戒を怠ることなく、ゴブリンの動作を確実に把握しながらの身体能力強化魔法の維持、それも体を纏っている魔力を薄く伸ばして密度を高めることを同時にするのはそれほど簡単じゃないんだ。

 それでも相手は1匹だから、襲われてない時にできることを試してみるといい」


 襲われているフランツには難しいが、他の3人は心が静まっているな。

 特にライナーは驚くほど集中しているのが明確に表れていた。

 近くにいるふたりがその気配に意識を向けるほどの密度を感じる。


 やはりスカウトの経験が活きているんだろう。

 彼の弓術はかなり卓越したものだった。


 それに俺の言葉もしっかりと憶えていたようだな。

 真っすぐ見据えたその先が何かを掴みかけているのかもしれない。

 エックハルトも含めて、ふたりはまず問題なさそうだ。


 気配から察すると、ライナーは前衛に変更したみたいだな。

 とても安定感のある察知能力を身につけられたところから考えると、真面目に研鑽を続けてきたのがよく分かる。


 優しく真面目で礼儀正しい上に他者を見下さない精神は、まるで物語に登場する"勇者"を連想した。

 弓士から勇者に転職なんて中々面白い経歴に思えるが、今の彼なら本当にそれを実現できてしまうかもしれないほど強くなったのが手に取るように分かった。



 エックハルトも研鑽を続けていたのは理解できる。

 しかしライナーほどの集中力を持てなかったのが、成長の妨げとなった要因のひとつだろう。

 とはいえ、それほど大きな障害にはならないほど強くなったのは間違いない。


 ……だが、彼には迷いが感じられた。

 それは修練を続けることで強くなれるのか、ということではなく、自分が何をするべきなのかを見失いつつある、といったほうが正しいだろうか。

 優しい彼のことだから、誰かのために悩んでいるのは想像に難くない。

 今回の一件を話したことでさらに悩ませてしまったのも間違いない。


 突き放すことになるが、これは自分自身で解決しなければならないことだし、そうするべき問題なのも彼自信がいちばん理解しているはずだ。

 バウムガルテンへ着くまでに何かあったんだろうが、同時にその答えも掴みかけているようだし、これについて俺がとやかく言わないほうが良さそうだ。



 ディートリヒはライナー寄りの戦い方になってるな。

 パーティーのスタイルが変化したことで、中衛の彼に負担がかかったのか。


 それでも連携が取れなければ80階層をクリアすることは難しい。

 まず間違いなく前と変わらずにチームの中核をなしているのは彼だ。

 彼の性格だけじゃなく、リーダーになるべくしてなったってことだな。


 4人全員が強くなれたことで、ある意味引っ掻き回す要因にもなりかねないパーティー構成を、彼の手腕で巧く纏めたんだろう。


 そういった人物は非常に貴重で重要な存在になる。

 この世界に降り立って初めて出会ったのがディートリヒってのは、少し出来すぎている気がしてきた。

 それほどに特質的なものを彼に感じた。


 強さという点ではエックハルトよりも少しだけ上にいる程度だが、彼の持ち味は護ることだと俺は思っている。

 それは仲間を単体で護るだけではなく、パーティー全体の生存率すらも極端に跳ね上げる強さにまで成長すると確信した。


 今はまだその片鱗しか見せていないのが残念ではあるが。



 残るはフランツだが、彼の本質は"動"だからな。

 前衛よりの中衛と聞いた時は首を傾げたが、自然とその位置に落ち着たようだ。


 かなりの成長を見せる気配察知能力の高さは、あの日放った俺の威圧にも耐えきった彼なら当然と言えるだろう。

 中でもスタミナは誰よりも高く、最前線を駆け抜けられる剣士としては一級だ。


 口調や性格とは違い、冷静さを頭に残した戦い方ができる彼はクレバーな戦い方を身に着ければ、世界でもトップクラスの剣士になれるとは思っていたが、俺なんかが教えなくても到達していたかもしれないな。


 それでも、気配察知を教えることでより盤石になるだろう。

 さすがに"技"は教えられないが、魔力による身体能力強化法と魔力の流れを掴めるようになれば、80階層のボスだろうが単独撃破も視野に入るはずだ。


 ディートリヒを軸にフランツとライナーが前線に出て、エックハルトが中衛寄りの支援と前衛を巧みにこなせるようになれば、たとえランクS冒険者のチーム相手を複数相手にしても圧倒できる強さにまで到達できる。



 本当に面白いチームだな。

 彼らなら、どこへだって行けるような気がしてきた。


 今はまだまだ技術力が拙いけど、魔力を体に薄く伸ばす技術は体得しつつあるし、この分なら3週間もかからずに魔力の流れを見極められるかもしれない。


「うぉぉッ!?」

「……うるさいぞ、フランツ。

 集中できないから静かにしろ」

「こいつ俺ばっかり狙ってんだぞ!

 おかしいだろ! 何とかしろよディート!」

「……これは俺もさすがに予想外だったよ。

 ゴブリンには相当好かれるみたいだな……」

「嬉しくねぇよ!

 俺は!

 こんなのに!

 好かれたいんじゃ!

 ねぇッ!!」

「集中しないと本当に命中するぞ、フランツ」


 器用に棍棒を避け続ける男の悲痛な叫びが、ボス部屋全体に響き続けた。

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