大人たちの装備
レヴィアが纏っているのは"水天の羽衣"。
水属性攻撃力を上げつつ、魔法防御力と魔力も上昇するローブだ。
羽衣というか、どう見てもローブなんだよな、これ。
薄水色の涼しげなもので、彼女の髪に良く合っている。
何本か彼女に合った大杖が出ているが、本人の希望から武器は持っていない。
元々魔力も高い上に、身体能力が人族とは比べ物にならないほど強い。
そんな彼女が能力上昇する武器を持てば、エルル以上の凄まじい威力になる。
ともあれ、防御力が上がる装備で、しかも彼女の好んでいるローブが手に入ったのは重畳だった。
リージェにも同じことを言えるんだが、どんなに強固な体でもしっかりとした装備で守ってほしいからな。
リージェが纏うのは"豊穣のローブ"だ。
シックな色合いに落ち着きがある大人のローブだが、その性能も笑えない。
物理防御と魔法防御力を大きく上昇し、魔力までかなり底上げさせる凄まじい性能を持つ。
大人の雰囲気が漂う魔術師に見えて、持ち前の頑強さがさらに増した今の彼女は、まさに揺らぐことのない大樹のような存在となった。
武器を持てば威力が強すぎるどころか、彼女の場合はようやくまともな制御ができるようになった攻撃魔法がこれまで以上の超火力となってぶっ放されるので、危険を感じたリージェは"豊穣の杖"を俺に渡した経緯がある。
恐らく彼女が本気で放った攻撃魔法は、大山ですら消し飛ばしてしまうだろう。
迷宮165階層に広がる大草原の見えている前方すべての地面を抉り出して薙ぎ払う威力は最低でもあったから、土属性を強化させる大杖を渡したリージェの判断は正しかった。
「最後はリゼットだな。
彼女が纏っているのは"束風"シリーズ一式だ。
効果はブランシェの"春風"よりも風に特化した性能の軽装だな。
防御力と魔法防御力も上がるが、何よりも速度が相当上がったんだよな」
「はい。
風属性の私と相性がとても良く、風を纏わせると効果が跳ね上がる印象ですね」
すべての防具につけられた上昇量を"鑑定Ⅲ"スキルで数値化できているが、実際にどれくらいの効果なのかは体感でしか分からない。
まぁ数字だけ表記されても、それがどれだけの意味を持つのかも判断はつけられない。
結局は装備した状態で、これまでと何が違うのかを体感で見つけるしかないんだろうな。
「武器は"束風の刃"。
攻撃力と速度まで上げる優れものだな。
ついでに風属性魔法も放てるんだったか」
「中位魔法までならMP消費なしで出せるようですね。
再使用はある程度時間を必要としますが、とても便利な短剣です」
「クラウディアはもう少し待ってもらうよ。
何が得意なのかまだ分かってないから、相性のいい防具を選ぼうな」
「ありがとうございます。
すべては主さまの御心のままに」
「……また突っ込みたくなる言葉が飛び込んできたな……」
なんとも言えない表情でこちらを見つめるのはやめてほしいが、それもクラウディアの俺に対する扱いを見たあとじゃ仕方ないだろうな。
「まぁ、こんな感じで凄まじい装備が160階層では手に入るんだよ。
……ちなみに男物の装備は不思議とひとつも出なかったんだよな。
それでも俺には"無明長夜"とラーラさんからもらった"宵闇の衣"があるからな。
フランツのロングソードもあるし、特にこれ以上は必要ないと思ってるよ」
「……まだ持っててくれたのは嬉しいんだが、あまりにも凄すぎる話に理解力が遠くで置き去りになってるな……」
ぽつりと呟いくフランツは、ここではないどこか遠くを見つめながら話した。
それだけの衝撃的な効果を持つ装備なのは間違いないし、現状では世界のどこにもこれほど凄い性能の防具は存在しないだろう。
確かに160階層の報酬箱は、凄い効果のアイテムしか出ない。
だが同時に、ボスを倒せてこそ手に入るものなんだ。
「……正直、今のみんなには辿り着けないほどの深度だし、160階層のボスは速度重視の"ヘルキャット"だからな。
風のように動き回る相手へ攻撃を通せなければ、確実に負けるぞ」
「……ぉぉぅ……。
トーヤが届かないくらい強くなってるのか……」
「確かに俺も倒せるが、実際に戦ったのは子供たちがほとんどだよ。
あとは何度かリージェたちも単独で狩ったくらいで、修練は165階層の挟撃オーガどもだったからな。
装備を揃える目的でボス部屋を連戦しただけなんだ」
その言葉に凍り付く彼らだが、実際俺は強くなったわけじゃない。
修練も基本的なものばかりだし、魔法強化に力を入れたからな。
お陰でステータスエフェクトをⅣまで上げられたし、やってきたことは報われているが。
「勘違いされているみたいだが、俺はみんなと別れてから大して強くなってない。
いい武器が手に入ったことと本格的に戦える覚悟ができた程度で、技術面ではそれほど向上していない。
実戦経験をある程度積めたくらいで、強くなったわけじゃないんだよ」
迷宮で経験は随分と得られたが、結局"奥義の最奥"には届かなかった。
何かを掴みかけた瞬間を感じた程度で、それ以上のものは得られずにいる。
あと少しで手にできそうなのに、触れることができないもどかしさを感じた。
エルルにも言ったことではあるが、俺もまだまだ修練が足りないんだ。
旅をしながらゆっくりとそれを見つけていくのがいちばんだろうな。




