過敏になりすぎてる
「……じょ、"女難の相"?」
目を丸くしたままディートリヒは聞き返した。
驚きの中でも心配する気持ちが含まれるのは、出会った頃と変わらない。
本当にいい人と巡り会えたなと、心から思えた。
「あぁ。
それも的中率は98%らしい」
「……だ、大丈夫なのか、トーヤ……」
「今のところはそれほど被害を感じてない」
「……それほどって……」
肩を落とすディートリヒだが、こればかりはどうしようもないからな。
外れることを祈っているが、正直なところ半分は諦めている。
そこまで実害は出ていないし、なんとかなるだろうと考えるようにした。
「それでもいいッ!
それでもッ!
俺はおねいさんとお茶したいッ!」
こぶしを強く握り込みながらまるで懇願するかのような男に、俺たちは白い目を向けていた。
「……この反応は……。
さすがに想定外だな……」
「安心しろ、トーヤ。
俺も同じ気持ちだ」
冷ややかな視線を向けるディートリヒの横で、苦笑いをするライナーとエックハルトだった。
特にライナーは口を噤んでいるようだ。
何か一言でも発すれば面倒事に巻き込まれると思っているんだろう。
そしてそれは、悪いことに当たっているはずだと思えた。
そんな中、いつもとは違う印象の女性がいることに気が付いた。
「……随分静かだけど、何かあったのかラーラさん」
「んーん、なんにもないわよ。
ただ魔道具屋としては、みんなが装備しているものにとても興味があるわね!」
そう言葉にしたラーラさんはエルルを見ていたようにも思えるが、気のせいだろうか。
「そういや、俺らも結構深く潜ったけどよ、こういった装備は出なかったな。
例の100階層以降で手に入った魔道具なんだろ?
やっぱ相当強いものなのか?」
「あぁ、まだ話してなかったな。
一応みんなが着てるものは、60階層のボス報酬箱から手に入ったものだよ」
「"淡く光る赤箱"からドロップしたもの、か……」
「その先その先って、分かりにくいよな。
本当は別のダンジョンだと思えるほど違う異質な場所なんだが、160階層って言ったほうが理解しやすいだろうか」
「それがいいかもしれないな。
まぁ、俺たちでも100階層まで行けるか、自信もないが……」
俺の予想では120階層くらいなら到達できる強さに成長してると思うんだが、それでもボスが本格的な強さを持っているし、あまり期待を持たせるようなことは言わないほうがいいだろう。
物見遊山で首を突っ込むと、火傷じゃ済まない難易度になってるからな。
「それでそれで?
私の目にもスゴ魔道具なのは分かるんだけど、トーヤ君も鑑定できるのよね?」
「ラーラさんのほうが上手なんじゃないか?」
「私のは知識と経験に裏付けされたものなのよ。
だから色々とお勉強しなければ詳細は分からないわ」
笑顔で話す彼女の言葉に、何か違和感を覚えた。
まるで嘘をついたようにも思えるが、その必要も感じられない。
……過敏になりすぎてる気がするな、俺は。
ここらで少し本格的な休息を取ったほうがいいかもしれない。
正直、想像していた展開とは随分違っていたが、それでも精神的な疲労は今でも抜けていない体の重さを感じる。
たったひとつの指輪から始まった事件は一応収束したが、まさかこれほど疲れるとは思っていなかった。
ルーナじゃないが、休むのも大切な修練のひとつだからな。
今はゆっくりと休息を取りながら美味しいものを食べて、綺麗な景色の中を家族みんなで歩いていたいと本心から思えた。
……来るべき時に備える必要はあるが、それはまた休息後に考えよう。




