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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十五章 笑顔で歩いて行けるように
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過剰な反応を

 迷宮のさらに先となる100階層以降の話をしていると、案の定みんなは驚愕の色を浮かべた。

 これも寝耳に水だろうし、実際にその場に行ってみなければ想像も難しいと思えるほど80階層の難易度が高いからな。


 むしろ、90階層以降のほうが楽だった印象すら感じた。

 オークやオーガといった中・上位種と分類される魔物を相手にするよりも、まるで無限に歩いてくるようにも思えた大量のアンデッドを倒しながら突き進むことのほうが遥かに難しい。

 数に物を言わせて囲い込む戦術を取るような知能もないのが救いではあるが、頭の切れるゾンビが集団で襲い掛かる世界なんて怖すぎるからな。

 違った意味で子供を連れて行けなくなる。


「……トーヤが強いのはこの身をもって理解してるつもりだったが、まさか世界中の冒険者が挑戦しても成し遂げなかったことをこうも簡単にされるなんてな……」

「……俺ら、すげぇ苦労したんだけどな……」


 しょぼくれるディートリヒとフランツだが、注目点はそこじゃないことを話すべきだろうと思えた。


「89階層までは魔物の数が異常に多いからな。

 対処法を知らなければ攻略できないようになっている、とも言えるほどの高難易度だった。

 けど、それを超えた先の91階層からは通常の数に戻るんだ。

 今のみんななら、いや、83階層を突破できるなら問題なく100階層に挑戦できると思うぞ」

「そうなのか?

 ああいったのが永遠と続くんじゃないかと思っていたが……」


 そう思うのも無理はない。

 魔物数の多さは、相手がアンデッドでもあることからトラウマになりかけるほど強烈な衝撃だったし、実際ブランシェは嗅覚がおかしくなったはずだ。

 92階層に入った辺りまでは顔をしかめていたくらいだからな。


「……そういや、90と100階層のボスって、どんなやつなんだ?」

「あ、僕も興味があります。

 あれだけ凄まじい数の魔物を束ねる不死者の王みたいなのが座しているのでは、なんて話をしたくらいですし」

「そんな凶悪そうな魔物がいるとは思えないが……。

 それにそういうのは自分の目で確かめるほうが楽しいんじゃないか?」

「……んな余裕なんて、今の俺たちにもねぇよ……」


 肩を落としながらフランツは答えた。


 それもそうだな。

 命を失う可能性があるのは間違いないし、遊びで来れるような階層でもない。

 個人的にはその目で見定めて攻略法を考え、実践して勝利するほうが修練になるとは思うんだが、対策は今からしておいても損はないからな。


「90階層のボスはアンデッドワイバーン。

 12メートルくらいの高さで飛ぶ劣化した飛竜のような魔物のアンデッドなんだが、レヴィアがそれを見た瞬間、過剰な反応をしたんだよな」

「それに関しては今でもはっきりと憶えている。

 子供たちには申し訳なく思うが、体が自然と動いてな。

 気が付いたら渾身の右こぶしを汚らしい後頭部へ直撃させていた」

「……そのままレヴィア姉の一撃で、頭から地面に突き刺さったんだよね……」

「……逆立ちするワイバーン、すごかったの……」

「……逆立ちっていうか、レヴィアお姉ちゃんにさせられたっていうか……。

 とにかく、あの攻撃は重くて鋭かったね、ごしゅじん……」

「空中であれだけの威力を出すのはかなり難しい。

 レヴィアの身体能力あってこそと言えるだろうな」


 それだけじゃなく、しっかりと"廻"を使っていたのは間違いない。

 怒りに任せての一撃でもあれだけ発動できるなら、レヴィアは"静"寄りの"動"かもしれない。

 ポテンシャルが高すぎて、未だにレヴィアの強さが正確には測れないんだよな。


「ワイバーンには悪いが、憂さ晴らしのような爽快感があった。

 同じような魔物が出れば、今度は自重するように努めるよ」


 ……努めなければ体が動くのか……。

 まぁ、昔のこととはいえ、例の一件で記憶の奥底から思い起こされたわけだから、それも仕方ないとは思うが。


「……空飛んでるワイバーンを叩き落した上に、頭から地面に突き刺すとか……。

 どんだけだよ……」


 血の気を引かせながら話したフランツには衝撃的だろうが、これもしっかりと伝える必要がある。

 憧れていたエックハルトもいるし、彼女たちの種族に持たれている印象を正しく持ってもらいたいからな。


「龍種は本来穏やかで理知的な高位の存在だ。

 思慮深く気高い種族で、排他的な思想も持たない。

 コルネリアの一件を聞いて誤解がないのは分かるが、人のために想ってくれる優しさを持つんだよ」


 もちろん龍種の中にも厄介な存在は確かにいる。

 それについて話すべきか悩んでいると、当の本人から発言されてしまった。


「ヒトの子を咀嚼して吐き捨てるような理解しがたい龍もいるが、ほぼすべての龍種はそんなことをしないし、考えたことすらない。

 するのは腐龍と、気まぐれで人を噛み殺す邪龍だけだろうな」

「…………やっぱいるんじゃないか」

「肯定したくもない悪食だが、存在は否定しない。

 腐龍は世界のどこか辺鄙(へんぴ)な場所で、我への復讐を固く誓っているはずだ。

 あの幼子も今度は確実に以前の我を消せるほどの強さにまで成長してるだろう」

「……おいおい……穏やかじゃないな……。

 そんな恐ろしいのが町に来たら、阿鼻叫喚の地獄絵図になるぞ……」

「問題ない。

 強くなったのは奴だけではない。

 我もまた、奴の想像もつかないほどの成長を遂げた。

 今度は毒を撒き散らす隙も与えず、一瞬で殴り斃してみせるよ」

「……もの凄い毛嫌いしてるな……。

 嫌悪感がびりびり肌に感じるぜ……」


 90階層のボスで分かったことでもあるが、レヴィアは決して赦さないだろう。

 人に対しては寛大な心を持つ彼女でも、ただ愉快だという理由で起こした最悪の行動は、彼女を心底嫌悪させるには十分すぎた。


 むしろ今の腐龍と対峙すれば、文字通りの一瞬で勝敗が決するほどの強さを彼女は手に入れた。

 それに驕ることなく、今でも研鑽を続ける彼女が負ける要素は微塵もない。


 ……こうなると、一方的な戦いにすらならないだろうな。

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