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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十五章 笑顔で歩いて行けるように
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今でも変わらないよ

 折角こちらの世界へ戻ってきたフランツとラーラさんだが、今度はディートリヒたちまで別の世界に旅立とうとしているようだ。


 それもすべては俺たちがこれまでしてきた旅が原因だ。

 恐らく常人では一生をかけても体験できない濃密な時間を過ごしてきた。

 逆に言うなら、とても貴重な経験をしているとも言えるだろうが。


 思えば、これまで随分とたくさんのことが起こった。

 中にはロクでもない事態にも遭遇したし、何度も苛立ってきた。

 つい最近では怒りに任せて暴れたこともあったな。


「ともあれ、いちばんの厄介事はひと段落したから、みんなに会いに来たんだよ」


 穏やかな口調で話したが、先日の一件を話すと俺たち以外全員を凍り付かせた。

 いや、彼らの反応のほうが正しいだろうと思っている。


 これまでの旅路だけじゃなく家族のことや迷宮でのこと、最悪の連中と敵対したことやギルドに力を貸した件も含め、どれひとつとして一般人では体験することはない凄まじい内容だ。


 だから、口から魂が抜けそうなほど呆けているのも仕方のないことだ。

 みんなの気持ちが落ち着くまで、俺たちは雑談をしながら過ごした。


 *  *   


「そろそろ話ができそうか?」

「……あぁ……さすがに俺も、完全に凍り付いてたな……」


 右手を額に当てながら、呟くようにディートリヒは話した。


「まぁ、言葉を失うのも思考が凍り付くのも当然だと思うよ。

 俺自身もすごい旅路だなって時々思うくらいだからな」

「……時々なのかよ……」

「それでも、俺たちは自然と出逢い、行動を共にするうちに大切な家族になった。

 ……世界ってのはきっと、そんなふうにできてるのかもしれないな」


 たまに、ふと思うことがある。

 まったく別の道を進んでいればどうなっていたのか、と。

 日本にいた頃も同じようなことを考えたが、結局答えは出せなかった。


 "あの時、ああしていれば"

 そう思ってしまうのが人間だ。

 良くない事態に遭遇すればするほど、強く感じざるをえない。

 でもこの世界にきて、みんなと出逢って俺は、その答えを出せた気がする。


 きっと別の道を選んでいたとしても、違った形で巡り逢っていたはずだ、と。


 そういったものも、人は"運命"って呼ぶのかもしれない。

 この世界をみんなと歩いて、そう思えるようになった。


 俺の考えを聞いていた彼らは、優しい眼差しを向けてくれる。

 これまでと何も変わらない瞳で微笑ましそうに。


 そんな彼らもまた俺の大切な仲間なんだと、改めて思った。


「トーヤらしくて安心したよ。

 独りで魔物の卵を育てながら、この世界で生きていける強さを手にしたいと話した時は相当驚いたが、何事もなく無事に再会できて本当に良かった」

「……何事もなかったわけではないですけどね……」


 血の気を引かせながらライナーは答えた。


「ったく、水くさいぞトーヤ!

 俺たちもかなり強くなったんだ!

 暗殺者程度でビビる俺らじゃねぇ!

 言ってくれりゃ力になれたってのに!」

「そうよそうよ!

 私だって魔道具や魔法を駆使すれば戦えるのよ!」

「そう言ってくれるのが分かってたから、巻き込みたくなかったんだよ」


 彼らは仲間のためなら身命を投げ打つ覚悟も厭わない。

 たとえ自分に何が起ころうとも、全力を尽くしてくれただろう。


 ……ほんと、分かりやすいよ。

 分かりやすくて、何よりも心に沁み入る。


 そんなみんなだからこそ、関わらせずに笑顔で冒険しててほしかったんだ。

 何事にも束縛されず、誰よりも"自由"でいてほしかったんだよ。


 その気持ちは、今でも変わらないよ。

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