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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十五章 笑顔で歩いて行けるように
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謎多き女性

 まさかとは思うが、しっかりと確認するべきだな。


「エルルのことを知っているのか?」

「知り合いの子に似ていたけれど、"はじめまして"で間違いないわ」

「……そうか。

 この子は記憶喪失なんだよ。

 だから、この子を知ってる人も俺たちは探しているんだ。

 何か心当たりがあればと思ったんだが……」

「思わせぶりなことをしちゃったわね。

 でも、"空人"の()とお別れする、ずっとずっと前のことだから」


 年齢的にも違うわ。

 そう彼女は、どこか懐かしそうに言葉にした。

 続けてラーラさんは別の話をし始めたが、話を逸らしたのだろうかと勘ぐってしまう俺がいた。


 しかし、あまりいい傾向ではない。

 これも直していかないといけないな。


「私も魔道具屋さんを開いて、結構長いのよ。

 そもそも迷宮都市で開業したくらいだし」

「それは俺らも初耳だな。

 デルプフェルトに来た切欠ってのもあるのか?」


 どうやらディートリヒたちも知らなかったみたいだ。

 彼らは知り合って結構経つと聞いたが……。

 謎多き女性だな、ラーラさんは。


「んじゃ、古巣に戻ったような感覚なのか?」

「そうね。

 ここは色んな意味で感慨深い町だし、仕入れも楽で美味しいものも多いわ。

 けど、あまりにも行き交う人が多すぎて、息が詰まることも時々あるのよね。

 そんな時はお店をたたんで、風の吹くまま気の向くまま、自由に世界を旅することもあったの」

「そこでトーヤとは別の"空人"と出会ったってことか?」

「そうよ」


 とても嬉しそうに、けれどもどこか寂しそうに彼女は答えた。

 その表情はとても印象的で、初めてラーラさんと出会った頃を思い出した。


『もう、ずっとずっと昔にお別れして、それっきりよ』


 ラーラさんは以前、そう話していた。

 ……とても寂しい色を瞳の奥に込めながら。


 ただ、死別したわけではないことだけは確かだ。

 それが元いた世界に帰還したのか、それとも別の道を歩んだのかは分からない。

 本音を言えば会って色々と確かめたかったと、今でも思ってしまう。


 そもそも俺がしようとしていることは、言葉通りに"世界を越える"ことだ。

 まるで現実感のない、雲を掴むような方法を見つけなければならない。

 本当にそんなことが可能なのかと疑心暗鬼になる気持ちもある。


 そのひとつが、元いた世界の書物にも多く残されている。

 研究はもちろん、手に取って詳しく調べたことすらないが、異世界人など小説やアニメを含む創作物の中で起こる出来事としか思えない。


 実際、それは間違いではないはずだ。

 異世界人と出会ったなんて言葉にすれば正気を疑われる。

 異なる世界にやってきた人など存在しないと、俺はこれまで思っていた。


 だが、現実的にそれをしてしまっている俺はどういった存在なのか、未だによく分かっていない。

 俺が地球から異世界に飛んだという違いはあるが、さほど大差はないだろう。


 問題はこの世界ではそういった現象が、非常に稀ではあるものの起こりうる、ということだ。


 ある日突然、知らない世界に放り込まれたことは、この際どうでもいい。

 着の身着のままで降り立ったのも、些末な問題と言えるだろう。


 だが、履いた記憶のない靴を身につけたまま異界に立っていたことは異常だ。

 あの日はいつものように道場で朝稽古とシャワー、食事の用意をしたことは憶えている。


 そのあとの記憶がない。

 すっぽりと抜け落ちている、とも言い換えられるかもしれないが。


 これは、明らかに何ものかが関与しているんじゃないかと、最近は考えるようになった。


 そんな人智を超えた存在がいるのかは、まだ分からない。

 しかし、少なくとも桁違いの身体能力と、ヒトからすれば高位の種族にも思えてしまう長い時を生きる龍種がいるくらいだからな。

 俺の知らない、知りようもないことを知っている者がいると考えるのが自然だ。


 ……やはり、レヴィアの里に行く必要があるかもしれないな。

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