安心したよ
中央に飾られた魔道具も、日用品に使えるものも配置は同じ。
まるでデルプフェルトにあった店に戻ったような気持ちになった。
思えば俺はここで働いていたからな。
魔道具の種類や細かな違いこそあれ、注目度の高い商品の並べ方や買ってほしい道具の置き方でラーラさんの店だと分かった。
感慨深さを感じつつも、どこか帰ってきたように思える不思議な感覚があった。
「……たった1週間、お邪魔しただけなんだけどな」
「分からなくはない。
それだけ居心地のいい店だったからな。
懐かしさを感じるには十分だろ」
しみじみと答えながら店内を見回すディートリヒだった。
「こういった心情を抱く場所はとても少ないと、私は思います。
人によっては感じることもないかもしれませんが、それはどこか寂しく私には思えてしまうのですよね」
「きっとそれもラーラさんがいるから思えることではないでしょうか。
あの方はとても不思議な魅力がありますし、僕たちも魔道具屋は数えきれないほど回りましたが、ここ以上の居心地の良さはなかったです」
「……だな。
俺もラーラさんとのやり取りは楽しいからな。
なんだかんだ振り回されることもあるけど、こういった縁も大切にしないとな」
「立ち直ったのか、フランツ」
「そういうわけでもねぇけどよ、これから色々と話してくれるんだろ?」
「あぁ」
少し苦笑いをしながら俺は答えた。
これまでの旅路で色々なことがあったからな。
とても長い話になりそうだ。
そんなことを考えている時だった。
「……トーヤ君……?
トーヤ君! トーヤくーん!」
店の奥から顔を覗かせた女性は驚いた表情を見せたが、すぐさま笑顔でこちらへと駆け寄り、飛び込んできた。
思わず反射的に触れる寸前でするりと避けてしまった。
地面へ豪快にダイブした彼女は、滑り込むように扉へ頭から突っ込んだ。
行動してから申し訳なさが込み上げるが、まぁ大丈夫だろ。
頭から煙が出ているようにも思える彼女へ、俺は言葉にした。
「久しぶり、ラーラさん。
手紙見つけたんだけど、あれどういう意味なんだ?」
「いまのを完全になかったことにした上でいつも通りの挨拶をするトーヤ君に、私は涙がちょちょぎれるわよ!」
がばっと物凄い速度で起き上がった涙目のラーラさんは、額を右手でさすりながら怒ったように答えた。
「頑丈なのは分かってるから、心配はしてないよ」
「今度は美味しいごはんのことを言葉にしないで対応したのに避けるなんて!」
「頭の中では思ってたんだな」
「……あら、こんなところに埃が。
あとでお掃除しなくっちゃ」
ばつが悪そうに視線を逸らしながら逃避する彼女に口角が緩んだ。
「相変わらずで安心したよ。
変な手紙残すから、何事かと思った」
「んふふー。
我ながら会心の作だと自負してるわ。
結構書くの難しいのよ、その文字」
……やれやれ。
これでも驚いたんだが、それを伝えると今度はさらに手が込みそうだから言わないほうがいいだろうな。
「それにしても、これだけ多くのお客様が一度に来客するなんて、お店を開いて初めてのことね」
「俺の家族を詳しく紹介したいけど、いい頃合いだし夕食を準備するよ。
どうせ毎日味気ない固形物を修行僧みたいに黙々と食べてるんだろ?」
「そんなことないわよ!
私だって毎日美味しいものを食べに行ってるわ!
これでも行きつけのお料理屋さんの10軒や20軒はあるんですからね!」
……それは、俺にどう反応されるのを期待しての発言なんだろうか……。
「まぁ、バランス良く食べてるなら安心したよ。
とりあえず軽く紹介を――」
「あら?
あなた、お名前は?」
「え、あたし?
あたしはエルル。
はじめまして、お姉さん」
「……そう。
こちらこそ、はじめまして」
……なんだ?
この場合、いちばん小さくて髪色も俺と同じのフラヴィに意識が向かうと思っていたが……。
身長差で考えればエルルとそれほどの違いはないし、それほど気にすることでもないようにも思えるが、何か引っかかる言い方をしたな。




