仲良く
ギルドマスターの部屋に入ると、すぐ声をかけられた。
「二日ぶりじゃの、トーヤ殿」
「……ここでもかよ……」
「うむ? 何の話かの?」
「いや、何でもない」
執務机からこちらへとやってくる彼に、フランツは思わず言葉にした。
とはいえ、こうも連続で同じような扱いをされれば言いたくもなるだろう。
来客用のソファーへ静かに腰をかけるローベルトは、机から持ってきたトレイをテーブルに置き、一息ついて話した。
「……はぁ。落ち着くのぅ……。
おうちに持って帰りたいほどふかふかじゃのぅ……」
「業務上横領罪で告発して檻の中で号泣させますよ?」
「相変わらず凍てつく言葉が鋭い速度で飛んでくるのぅ……。
ワシ、そろそろ全身氷漬けになっちゃいそうだわい……」
「中々素敵な作品が完成しそうで何よりです。
ぜひ玄関口に飾りましょう。入荷はいつ頃になりますか?」
「……もしかしなくても、ワシ、嫌われとるのかの……」
「そんなことはありません。
とても良い上司だと他職員からの評判も上々です」
「……そんな態度、誰からも取ってくれた記憶がないんじゃが……。
それに、くーちゃんはそこに含まれてなさそうじゃの……」
「その呼び名をやめて下されば、1ミリ程度は好感度が上昇するかと」
「……翌朝の枕は涙で重くなってそうだの……」
「それでは失礼致します」
「うむ。引き続き憲兵と協力し、盗賊どもの聴取を継続。
白銀剣の入手経路と時期は徹底して詰問するように。
共犯者の存在が判明すれば、最優先でこちらへ報告を」
「かしこまりました」
このやり取りが毎回のように行われていることだけは理解できた。
どこか寂しそうにため息をついたローベルトは、トレイの上に置かれた袋から金を取り出し、5人分に分け始めながら言葉にした。
「それで報酬じゃが、仲良くわけわけでいいのかの?」
「あぁ、それで構わないぞ。
……ただ、その量には疑問が残るが……」
「ふむ。言いたいことは理解できるつもりじゃが、まずはわけわけさせなさい」
金色の硬貨を上に積んでいく作業を5人分繰り返すローベルト。
どこか積み木みたいにも思えてくるが、問題はそこじゃないのは俺でも分かる。
さてどうするべきかと考えていると、金貨を積み終えた彼は話し始めた。
「よし、綺麗に積めたわい。
これがほんとの"積立金"じゃの」
「……そろそろ突っ込んでいいか、ローベルトさん」
「やれやれ。お前さんはいつもせっかちさんじゃの、ディートリヒ。
そんなんじゃ可愛いお嫁さんのひとりやふたりは逃げるぞい」
「……ふたりはいらないし、余計なお世話だよ」
「ふむ。気になる子がいないなら、職員のドロテーアはどうじゃの?
中々の器量良しで可愛げもある。そこそこドライな一面もあるがいい子じゃよ」
「いや、俺はまだ結婚するつもりはないぞ。
大体俺が所帯を持ったら、こいつらどうするんだよ」
「そうだぞ、ローベルトさん。
俺らは"幸運"持ちになったんだ。
俺達の冒険はこれからだって時に、なんて話を持って来るんだよ」
盛大な打ち切りフラグで大変なことになりそうな話をしているな。
とは、さすがに言葉にしても意味はないか。
さて、冗談も程々にして。
目の前に積まれている金貨をどうすればいいんだろうな。