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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十五章 笑顔で歩いて行けるように
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静かな時間が

「……面白い装飾の腕輪だな。

 この辺りではあまり見かけない気がする。

 それにこの細工は、素人目に見ても凄いと思えるよ」


 素材は白金と銀か。

 上品なデザインの細工と良く合ってる。

 値段はやはり相当高かったが、これだけ他の装飾品とはまったく輝きが違うんだよな。


 どうやら中々に希少価値のある腕輪だったようだ。

 中年女性の露店商はどこか嬉しそうに答えた。


「お兄さん、お目が高いねぇ。

 これは若手でいちばんと言われるアマーリア・アーレントの作さ。

 なんと若干15歳で世界最高の細工師ハンス・クライスラーから認められて独立したって噂もあるんだ。

 世界中を旅しながらその土地の技術を細工に込めてるってんで、彼女の作る装飾品はふたつとないとも言われてるんだよ」


 ……どうりで高いはずだ。

 若手というが、これほどの細工を作り出すには相当の技量がなければ難しいんじゃないだろうか。


 ともあれ同じものがないなら、誰かひとりに買ってあげるのもどうかと思えた。


「路銀の足しにしたいそうで、ある旅人が売りに来たんだ。

 一点物だからやめといたほうがいいとは言ったんだけどねぇ。

 ……で、どうするお兄さん。

 いつなくなるのかも分からない貴重な品だし、買ってくかい?」


 レヴィアたちを確認するも、特に興味はなかったようだ。


 まぁ、迷宮に行けば効果的な魔道具が手に入るからな。

 実用性のないものに関しては、それほど必要には思わないのか。

 ……それはそれで、何とも言えない気持ちになるが。


「大丈夫そうだ。

 欲しい人が買えるように、俺たちは遠慮しておくよ」

「いい表現をするね、お兄さん。

 ぜひまた見に来ておくれ」


 嬉しそうな店主に挨拶をして、俺たちは露店を離れた。



 ここ東区の噴水広場前には、多くの露店が建ち並ぶ。

 様々な品が置かれることもあって、子供からお年寄りまで楽しめる人気スポットらしい。


 中には掘り出し物もあるそうで、一般人だけじゃなく他国の商人、時には先ほどのような一点物の装飾品を捜し歩く人も足を運んでいると聞いた。


 美しい町並みと綺麗に彩られた花を見ながら歩くのもいいが、何が置かれているのかも近くに来てみるまで分からない露店に立ち寄るのも楽しかった。


 ……思えば指輪を手にしてからここまで、こういった時間を過ごした経験が少ないと思えた。

 ないわけではないが、どこか心の余裕のようなものがなかったのかもしれない。


 それでもこうして笑顔で歩くみんなを見ていると、ようやく静かな時間が戻ったようにも感じられた。


「あ、トーヤトーヤ!

 あっちに素敵なカフェテラスがあるよ!」

「そうだな。

 少し休憩しようか?」


 満面の笑みで答える子供たちに、微笑ましそうに見つめる俺たちだった。


「それにしても、随分と大所帯になったな。

 デルプフェルトを出た時は、子供たちとマンドレイクの女性だけだったんだが」


 俺を入れると8人のパーティーか。

 少なめの冒険者チームだと2組になる数だな。


 クラウディアは少し鍛える必要があるだろうか。

 それも少しゆっくりしたら迷宮に潜って強さを確かめてみるか。

 折角だし、もうしばらくはバウムガルテンに滞在してもいいだろうな。


「こうして家族が増えていくのだろうな」

「そういえば、放任主義で両親からすぐに離れてしまうんだったな」

「うむ。

 それが寂しいと感じたことはないが、我としてはもう少し繋がりを持つべきだったかもしれないと最近思うようになったよ」

「レヴィアの両親は健在なのか?」

「あぁ。

 "里"にいるはずだ」


 相当離れてるって話だったな、レヴィアの故郷は。

 だが実際の龍種は排他的な思想を持たないと聞くし、俺も興味がある。

 いずれは龍の里にも行ってみたいと思っていた。


「エルルの家族を見つけたら行ってみようか」

「良いのか?

 何もないところだぞ」

「いや、話を聞くだけでも楽しめると思うよ。

 長く生きた方なら、それだけ歴史を知っているからな」

「なるほど。

 それならば保証できると思う。

 世界を旅した者もいるから、退屈はしないはずだ」


 興味深い話を聞いた。

 そういえば、人の姿になれる種族もいるって言ってたな。

 人が言い伝えてきた話よりも、本人の言葉で直接聞ける内容のほうが遥かに貴重だからな。


 もしかしたら、俺の世界に戻れる方法を知っているかもしれない。

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