肩の荷を降ろすように
そろそろ彼女の件もはっきりさせる必要があるか。
テレーゼさんとリーゼルの横にいるクラウディアへ俺は訊ねた。
「それで、どうする?
意思は変わらないのか?」
「はい。
我が剣は、御身と共に」
……美しいほど様になってる敬礼を見せられた。
やれやれ。
不思議な縁もあったもんだな。
折角自由になれたってのに、俺なんかに仕えたって――。
「どうか、ご自身を悪く仰らないでください」
……また笑顔でやんわりと怒られた……。
これはもう何を言っても変えられないだろうな……。
ちらりと家族を見るが、どうやら好意的に思ってくれているみたいだな。
クラウディアにも確認をするように視線を向けるが、容易に想像ができる言葉が返ってきた。
「主さまの家族は私の家族も同然。
この身に変えてもお守りいたします」
「……色々と矛盾点が見えているが、とりあえずよろしく」
「はい」
「それとルーナ、にまにましないでもらえるだろうか…」
「この状況でするなってほうが酷っすよ、ヴァイスっち~」
「はぁ……」
疲れが一気に溢れてきた気がする。
あとはひとりなんだが、彼女の答えはもう決まっているだろうな。
視線を向けると、とても優しい眼差しで言葉にした。
「これからも、みなさんとご一緒させていただきたいと思います。
私はみなさんと離れられないくらい大切に想っていますから。
それと、改めて名乗らせてください。
リゼット・ランベールです」
「……いいのか?
本名はかなり知られているんだろう?
目立てば両親にも迷惑がかかるんじゃないか?」
ランベール商会の大きさは俺も分かっているつもりだ。
今回の一件で落ち着きを見せたとはいえ、暗殺者がゼロになったわけじゃない。
いずれは彼女の実家にまで牙を向く可能性だって考えられる。
「それについては問題ないと思うっすよ。
家名を出さなければ"冒険者のリゼット"で通るっす。
アタシが知る中でも、その名の冒険者を22人は知ってるっす。
一般人を含めれば100人ちょいに膨れ上がるんすから、問題ないっすよ」
「……一時期流行った名前だし、詳しく調べようとすれば数百人は軽く出てくる。
"商家の娘"なのは限定されやすくなるから、あまり口にしないほうがいいけど」
《この国の総人口は3200万人を超えると言われている。
中でもバウムガルテンは最大級の迷宮があるからね。
世界中から絶えず人が行き来するんだ。
それは何も冒険者に限った話ではなく、商人や観光目的の一般人もやってくる。
世界でいちばん栄えた都市だと私は思っているよ》
この町はこれまで訪れたどの町よりも活気に溢れ、何よりも人の往来がまったく違うほど多かった。
ルーナたちの言うように、誰かひとりを特定するのは困難を極めるだろう。
俺は神経質になっていたのかもしれないな。
これまでのことを考えると、それも仕方ないとも思えるが。
「少し考えすぎていたみたいですね」
《ヴァイス殿は周りに気を使いすぎている傾向があるからね。
もう少しだけ肩の荷を降ろすように世界を歩くといいんじゃないかな》
「そうっすよ、ヴァイスっち。
こうやって"にぱー!"って笑いながら歩くといいっす」
満面の笑みを見せるルーナだが、とても俺には実現できそうもないくらい眩しい笑顔だった。
「さすがにそれは難しそうだな……」
「……クールなお顔も、ヴァイス君のいいところ」
「ありがとう、と言っていいんだろうか……」
首を傾げてしまうが、要は気を張り過ぎていたってことだろうな。
まぁ、暗殺者なんてわけのわからない連中を相手にしたんだ。
それも当然かもしれないな。