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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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どいつもこいつも

 静かに"無明長夜"を鞘へ収めると、その動作にシュティレは首を傾げた。

 さすがにかなり早めに動いたし、見えなかったとしても仕方がない。

 彼女にしてみれば、鞘から刀を抜く前に戻したように見えたんだろう。


 それだけの凄まじい効果を持つ"動"の上位技に位置する"廻"は、やはりこの世界の住人では対応できないほどの強さがあるのかもしれない。


 練度や技術力の低さが目立っていたが、それはこのジジイにも言えるようだな。

 好々爺を連想させたいのか油断を誘っているのかは興味もないが、これまでと変わらない声色が纏わりつくように耳へ届いた。


「……おやおや、いったい何をするつもりだったのです?

 来て早々に戦線離脱するだなんて言葉にしたりはしませんよね?」


 陰湿な言い方をする。

 性格まで捻じ曲がっているんだろう。

 幼少期から腐りきった精神を持っていたんだな。


 周囲を確認するが、2階から上層の気配に変化はない。

 動きもないことから考えると、ここでの戦闘に気づいていないか、心配すらしないのかもしれない。

 それだけの絶対的な強さを持つとは思えないが。


 さすがに全員が暗殺者とその関係者じゃないのか。

 それとも、そう思わせるように偽りながら過ごしているだけか。

 気になるところだが、まずは眼前のジジイを押さえることが先決だな。


 対象へ向かい、足をゆっくりと進める。

 このまま負けを悟って服毒してくれるなら治療して捕縛するだけの簡単な作業で済むんだが、どうやら力量差すら気づいてもらえないみたいで苦労しそうだな。


「いったい何がしたいのか分かりませんが、やる気があるなら結構結構。

 こちらとしても実験動物が増えることは好ましいですから、精々結果だけは残してくださいね」


 技術はあっても、暗殺者としては2流だな。

 こんなのがよくこれまで見つからなかったもんだと本気で思うが、教会の司祭に疑問を持つことすら異端と言われる思考なのかもしれないな。


「さあ、私のゴーレムに勝てるつもりならかかって来なさい。

 あなたのすべてを否定し、いかに抵抗が無意味であるかを思い知りなさ――」

「――口数の多いジジイだ」


 一気に距離を詰め、鞘の石突で対象の水月(みぞおち)を抉るように鋭く突いた。

 苦悶の表情を浮かべ、地面にのた打ち回るジジイに嫌悪感が溢れる。


 こんな速度も見えなかったのか……。

 アイテムに頼った戦い方がどれだけ危険か分からないんだな。


「どいつもこいつも、修練サボっておもちゃ遊びかよ」


 思わず声に出てしまったが、理解できないならそれでかまわない。

 安全に捕縛して憲兵詰め所に放り込めるほうがいいからな。

 床に転がる息も絶え絶えのジジイを魔法で昏睡させた。


「……ゴーレム倒さないと、攻撃は通らないはずなのに」


 目を丸くしたまま呟くように話すシュティレ。

 眠そうな顔ではあるが、相当驚いているようだ。


「とっくに斬ってあったよ」


 対象物へ指をさして視線を向けさせると、左肩から腰がずれて地面に転がった。

 そのまま光の粒子となって消えた姿は、まるで魔物のような扱いなんだな。


「な?」

「……すごい。

 速すぎて何も見えなかった。

 いつ斬ったの?」

「鞘から抜き放つ手前で距離を詰めて斬り込み、同じ位置へ瞬時に戻った。

 魔法壁を貫けるのかを試したいところだったが、そんな状況でもないからな。

 シュティレの読みどおり、ゴーレムを倒せば使用者に攻撃は当たるようだ」


 魔法壁が消えるタイミングは、ゴーレムが戦闘不能となった瞬間みたいだな。

 光になって消えるまで効果が続くなら、半永久的に護られることを意味する。

 思っていた以上にすごい効果を持つアーティファクトじゃなかったようだ。

 恐らくは使用者の技量で変化する類のアイテムだろうから、修練次第じゃとんでもない強さにまで高められそうだな。


 そういった点を考慮すればエルル向きのタクトだな、これは。

 近接戦にも対処ができるようになった今だからこそ渡せるものではあるが。


 だが、気になっていたことも浮き彫りになった。


「どうも俺が想像していた暗殺者とは、まだ出遭っていないみたいだ。

 たまたま出くわさなかっただけの可能性が高いから、注意するべきだな」

「……アーティファクトは異質だから、すごく危険なのがよく分かった」

「正直その対処ができないと、力量差があっても負けるな」

「……うん」


 しょんぼりとするシュティレだが、それほど気にしなくていいだろう。

 そもそもアーティファクトを所持することすら難しいと思える。

 潤沢な資金があろうがなかろうが、モノ自体が少ないだろうからな。


「ともあれ、みんなとの合流を急ごうか。

 昏睡させてあるから、コイツは転がしておけばいい」


 こくりと頷くシュティレの瞳は、すでに任務を続けるプロの輝きをしていた。

 今回は俺が倒したが、アイテムさえなければ彼女が勝っていたはずだ。


 それほどのアイテムであることは間違いなさそうだな。

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