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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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よく言う

 ヴァイス君が言っていたように、この先に感じる気配はひとつみたいだ。

 図面では祭儀場のような大広間になっているはず。


 扉に触れながら、気配を探る。

 ……何か、小さな音が聞こえた。


 わずかに視認できるように扉を開けて、周囲と目標を観察する。

 司祭を思わせる格好の人物が、祭壇を準備しているようだ。

 こちらを背にしているのは都合がいいが、そこそこ距離があった。


 24メートルほどか。

 一足飛びじゃ、さすがに気づかれる。

 相手が普通の司祭なら問題ないが、ごく少量ながら禍々しい気配が溢れていた。


 敵だ。

 それもこれは、特有の危険な匂いがする。


 不快な匂い。

 まるで血のようだ。


 私の任務はふたつ。

 目標を速やかに排除、およびルーナとの合流。


 リーゼルの支援をしたいけど、大丈夫だとヴァイス君は言っていた。

 彼女自身も問題ないと言葉にしたし、それを裏付ける力も持っている。

 間違いなく私たちよりも強いのだから、武力という点では心配する必要がない。


 どちらかと言えば、問題は私たちのほうにある、か。


 ……こんなことがお師匠様に知られたら、それこそお小言どころでは済まない。

 もう一度あんな地獄の中を生きることになるのは、絶対にごめんだ。

 迅速、かつ確実に目標を押さえる。


 けど、相手は司祭の格好をしているが、中身はまったく別だ。

 薬で強引に眠らせようとすれば、必ず抵抗してくるだろう。

 戦闘となれば周囲にも音が響くし、何よりも気配が急激に変化するから多くの暗殺者に気付かれる可能性が高い。


 幸い、と言っていいのかは分からないけど、この大広間は実質3階まで天井が高く造られているから、構造上は吹き抜けになっていない点を考慮すれば多少は目立たない、とは思うが……。


 床は見る限り硬そうだ。

 大理石のようなものだろうか。

 これなら足音を抑えながら進める。

 背後から薬を嗅がせるだけで済めば重畳。


 ……だけど、とてもできそうな相手じゃないと思えた。

 背後から脇腹にナイフを直接刺して、痺れさせるほうが確実か。



 大広間に入り、静かに近寄る。

 祭壇を設置する男にナイフを振るった瞬間、男の着ているローブを貫いて何かがこちらへ飛び出した。

 屈みながら回避し、低い姿勢のまま3メートル後方に飛び退いて距離をあける。


 肩を軽く掠めたが怪我はなかった。

 多少服が破ける程度で済んだか。


「……ほう。

 今のを避けますか。

 活きの良いネズミですね。

 これはいい材料(・・・・)になりそうだ」


 こちらに向き、おぞましく口角を上げる姿に思うところはあるが、それよりも厄介なのは相手の年齢だ。

 それにしても祭具を使って攻撃するなんて、罰当たりにもほどがある。


 ……レイピアよりも頑強な細剣。

 動かなければ今の一撃で終わっていた。

 それほどの危険な速度で繰り出した奇襲攻撃に、鼓動が大きくなる。


 間違いなく暗殺者のひとりだ。


 おまけに敵が老人という点が厄介さを増している。

 年齢に比例した技術と実績があることを意味する以上、迂闊に踏み込めない。


 しかし、体力だけはどうにもならない。

 いくら強靭に鍛えようとも、"若さ"が勝敗を分かつ。

 不意打ちを避けられたのだから、相手の攻撃は当たらない。

 短期戦を仕掛けてもこちらが確実に有利だ。


 残念ながら、そんな目論見も通用しないようだ。

 分が悪いと見るや、何の未練もなく武器を捨てた。


「今ので仕留めきれないのなら、遠慮なく使わせていただきますよ。

 私はか弱い老人ですから、直接的な攻撃はとても苦手なのです」


 あれだけ凄まじい速度で心臓を的確に貫こうとしておいて、よく言う。

 何かのアイテムを使って私を潰したくて仕方ない顔にしか見えない。


 ……ほんと、厄介極まりない相手だ。

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