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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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焼きが回った

 部屋の角に背を預け、回復薬を飲み干す。

 染み渡るように体全体へ広がるが、さすがに全回復は難しかった。

 確認すると、かなり厄介な状態のようだ。


 右肩が、随分と抉られたわね。

 これだけの深手だとポーションも効果は薄い、か。


 それでも血が止まったことは助かるが、相手が行動したことに気づかなければ反応がわずかに遅れていた。

 回避してもこれほどの傷なのだから、恐らくはあの一撃で終わってた。


 これは相手にとっても予想外のはず。

 だからこそ、次は確実に仕留められるポイントを狙ってくる。



 ……部屋に侵入した痕跡はない。

 デカい声を響かせる馬鹿男を今すぐにでも殴りつけに行きたいところだが、アタシ自身この場を動けなくなった。


 そう縛るのが相手の能力。

 いや、これは能力じゃないか。

 ダガーを振った瞬間、わずかに見えた。


 ……まずい。

 あんなことができる相手だなんて、さすがに想定していなかった。

 一瞬だけ見えたダガーを持つ腕が空間の歪み(・・・・・)に消えた。


 急所は避けられたが、今後も回避し続けられるとは考えにくい。

 むしろこのままだとジリ貧どころではなく、敗北する姿しか見えない。


 恐らく相手が持つのはアーティファクト。

 それも空間を捻じ曲げ、移動することのできる最悪の部類のアイテムだ。


 ……ったく。

 誰が迷い猫(・・・)だ。


 本当にアタシも焼きが回ったもんだ。

 たった一撃で敗色濃厚だと悟らされた……。


 殺意を思わせる気配はわずかにしか感じなかった。

 それほどの使い手なのは、もう疑いようもない。

 避けられたのだって、長年培ってきた勘としか言えない。


 今も隣の部屋でこちらの様子を窺っているんだろう。

 一歩も移動していない点を考慮すれば、どこからでもアタシを殺せるって自信の表れね。


 そもそもそんな恐ろしいことができるのかも分からないが、アーティファクトの可能性がある以上、起こりえない事態が起きても不思議ではない。


 ましてやアーティファクトの発見例が少ないのは、その多くが闇市場に流れていると考えられるからだ。

 自分たちに跳ね返ることも理解できない馬鹿どもが、目先の欲に駆られて最悪の連中に渡してしまったもののひとつなんだろう。


 連絡用魔石は多人数での討伐を幾度もしなければ手に入らない以上、相手が所持しているとは思えない。

 予定として組まれていなければ、増援が合流することはないだろう。


 だからといって、事態が好転したわけじゃない。

 今の攻撃はレジェンダリー品だろうと実行できるとは考えにくい。

 それほど凶悪で、とてつもない効果を持つアイテムなのは間違いない。


 アタシの推察が正しければ、あれは空間を自在に行き来し、相手の背後に無音で忍び寄ることができるはずだ。


 いや、それすらも必要ないか。

 体の一部を移動させて攻撃するだけで絶大な効果を持つ。

 恐らくは相手もそれを理解しているからこそ、最小限の腕と短剣を送り込んだ(・・・・・)

 相手の武器がダガーだけだと断定するのは危険だが、木製とはいえ厚めの壁ごとこちらを貫くつもりなら威力は相当下がる。


 投擲しない理由も読めた。

 肉体から離れた物は空間を移動させられないんだろう。

 もしそれが可能ならいくらでも狙い撃ちできるし、アタシならそうする。

 わざわざ攻撃される危険性を無視してまで肉体を送り込む必要なんてない。


 飛び道具が飛んで来ないのは非常にありがたい。

 それならばと背後を角で固めたはいいが、アタシ自身も迂闊に動けなくなった。


 進入経路は2箇所。

 窓と部屋の扉だけだ。


 天井は抜け落ちているが、真上ではない以上それほど危険では――。


 そう考えた瞬間、怖気立つ。

 反射的に上方へ視線を向ける。

 同時に50センチほどの空間が闇に覆われ、ダガーが振り下ろされた。


 焦りながらも頭をずらす。

 だが回避しきれず、左肩を深く抉られてしまった。


 体ごと離れたダガーに連れられて、鮮血が宙を舞う。

 追撃は許さなかったが、かなり重い一撃を受けた。


 ……一撃離脱。

 それも当然か。


 こちらの判断がわずかに遅ければ、無防備な状態に刃を通されてた。

 でも今の攻撃で仕留め切れなかったのは、向こうとしても焦りがあるはず。


 ……本当に、アタシも焼きが回ったもんだ。

 滴り落ちる赤い雫を薬で止めながら、己の弱さを噛み締めた。

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