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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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忘れないでほしい

《ヴァイス殿なら我々が伝えたいことも理解してもらえていると思う。

 あえてそれを言葉にすることはしない。

 ただ、ふたつだけ忘れずに覚えておいてほしい。

 我々冒険者ギルドは、"仲間"を決して裏切らない。

 そしてヴァイス殿が困った時、必ず手を差し伸べると。

 冒険者ギルドはもちろん、私個人が動くことも付け加えるよ。

 どうかそれを忘れないでほしい》


「……ありがとう……ございます……」


 言葉が続かない。

 彼は口先だけではなく、本気で護ろうとしてくれている。

 それを確信するだけの覚悟が伝わり、申し訳なさと感謝で気持ちが溢れた。


「我がバウムガルテン冒険者ギルドも、全力でヴァイスさんを支えます。

 この町を離れても護れることはあるでしょうし、何よりも冒険者ギルドは荒事に慣れていますから、その対処もできると思いますので」

「……ありがとうございます……」


 言葉だけでなく、実質的に冒険者ギルドが俺に保護を与えてもらえた。

 これは冒険者が強く望んでも、してもらえるようなことではない。

 どうにも恐れ多いと思えてしまうが、俺の庇護下にある家族にも適応してもらえるだろう。

 それが何よりも嬉しかった。



 この町は他国からやってくる旅人が多い。

 商人や冒険者だけじゃなく、旅行気分で一般人が訪れることもあるらしい。

 異国間の規律の差が生み出し、諍いも相当報告されているそうだ。


 特にバウムガルテンは世界最大級と言われる迷宮があるからな。

 ダンジョンから得られる利益は莫大なものになるし、大昔にはその利権を狙って東の地域と揉めていたこともあったとヴィクトルさんは教えてくれた。

 現在は併合され、この国の一部として存在しているのだとか。


《……話が逸れてしまったね。

 ついでに定時報告もしようか》


「はい。

 問題となる男は宿泊施設から離れております。

 時刻から察するところ、クラウディアさんに命令を下した直後かと。

 現在はルーナも諜報活動に戻り、男を追跡中と思われます」


《……ふむ。

 随分と男には振り回されているが、ようやく尻尾を掴めそうだ。

 怪我を完全に治さなかったことが冷静さを欠いたのだと思いたいな》


「少なくとも、暗黒街方面へ足を進めていると報告が上がっています。

 恐らくは問題の暗殺者とコンタクトを取るつもりかと」


《拠点も掴めればありがたいが……さて、相手はどう出るか》


 これまで宿から出ずに部屋で過ごしていた男だが、どうやら物に当たるわ従業員に悪態つくわで、貴族への対応が行き届いているはずの最高級宿に勤める従業員たちでも相当苦労しているようだ。

 あまりのひどさに憲兵が何度か出向き、貴族と見るや否やなだめる程度で終わっていることもあって、ますます図に乗らせているのが現状だったらしい。


「まるですり抜けるように、こちらの読みをかわされている気もしますが」


《そうだね。

 内通者の存在を思わせる行動はこれまでなかった。

 あくまでも好き勝手に男が振舞っているだけなんだろうね》


 いったいどんな教育を受けているのか俺には想像すらできないが、まともな知識も持たないんじゃないだろうか。

 そうでもなければ他国でこれほど目立った行動をしたりはしないはずだ。

 ましてや大貴族の当主と名乗った馬鹿野郎でもあるし、そんなことをすればどれだけの影響を与えるのかも考えていないんだろうな。


 恐らくだが、前当主はこれほど馬鹿ではなかったはずだ。

 もっと陰湿で最悪な男であることは間違いないが、目立つ行動は避けるだろう。

 それを踏襲せずに我侭な言動を繰り返すところから察すると、ニスカヴァーラは本当に状態が思わしくない可能性が高まったことを意味する。


 そして同時にそれは、こちらの好機となる。

 むしろこの国にいる馬鹿息子ニスラを捕らえ、暗部を一網打尽にできる理想形が現実味を帯び始めた。

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