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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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ミステリアスな魅力

「そういえば、クラウディアをずっと張っていたのか?」


 ルーナの合流は見計らったようなタイミングだった。

 もしかしたら、男が命令を下す場面にも遭遇したんだろうか。


 だとしても何かが変わるわけじゃないし、ルーナに思うところはない。

 これはただの興味本位だから、彼女が行っている諜報活動にも興味はないが。


 それを察したんだろうな。

 ぱぁっと明るくなったルーナは、すぐにしょぼくれた。


「……そうっすよね、興味ないっすよね……」

「子供たちを抱えて調査も何もないだろう?」

「確かにそうなんすけど、諜報活動には家族を装って行動する場合もあるんすよ。

 まぁ、それは別にどうでもいい話っすよね」


 寂しそうにため息をつかれると、何かこっちが悪いみたいに思えてくるな。


「冒険者としての調査依頼に興味がないわけじゃないが、さすがにプロとしての活動は遠慮したい。

 それに自分から家族を連れて危険に飛び込もうなんて親がいるとは思えないぞ」

「ヴァイスっちの場合はそうっすよね。

 そうあって欲しいし、そんな一例も世の中にはあるってことで。

 アタシがクラウディア様を見張ってたんじゃなくて、男を監視してる過程で彼女との接点を持ったのを確認して追いかけたんす」


 馬鹿男の方は、彼女が信頼を置くスカウト3名に任せてるらしい。

 とはいえ、全てを任せ続けるわけにもいかないから、そろそろ戻る必要があるとルーナは答えた。


 スカウトたちは優秀だが、暗殺者と敵対すれば時間稼ぎくらいしかできないかもしれないと彼女は話す。


「そういった武力での制圧が専門外とは言わないっすけど、敵を過小評価するのは危険っすからね」

「確かにそうだな。

 それについては良く分かってるつもりだよ」

「そんじゃヴァイスっち、クラウディア様のエスコートをお願いするっす」

「あぁ。

 ……気をつけてな」

「だーいじょーぶっすよ!

 こっちが本業っすから!」


 けらけらと笑いながら彼女は答えた。

 それが空元気だとは思わないが、相手が相手だけに未知数だからな。

 いくらルーナが強くとも、相性が悪ければどうなるかわからない。


「ありがとう、ヴァイス。

 そう思ってもらえるだけでも嬉しいわ」


 とても綺麗な笑みで言葉にするルーナ。

 その表情からは慈愛すら感じさせた。


「ちょこちょこ素を見せるようになったな」

「なはは!

 こっちも無理してるわけじゃないっすよ!

 2面性を持つオンナはミステリアスに思えて魅力的っすよね!?」


 ……なぜ俺に同意を求める……。

 俺は素直な女性が好きなんだが?


 そんな考えも彼女からすればお見通しのようだ。

 小さく"残念っすね"と答えたルーナは、ヒーローのような掛け声を発しながら壁にある小さなくぼみを巧みに使って屋根へ上り去っていった。


 何とも忙しないが、危険な任務にこれまで就いてきたそうだし、後悔しない日々を過ごしているのかもしれないな。

 そう考えると彼女のような生き方は、俺なんかには到底真似できない。

 俺にできることがあるとすれば、ルーナの無事を祈るだけか。


「それじゃあ俺たちも行くか。

 ……その敬礼みたいなのをそろそろやめてもらえると嬉しいんだが……」

「不快であれば即座に」

「そういう意味じゃ……。

 まぁ、いいか……」


 *  *   


 がやがやと喧騒が聞こえるこの通りは、多くの馬車も行き来する。

 ある意味ではこういった場所こそ狙われやすいのではないかとも思えてしまうが、あまり過敏に神経を使っても疲労するだけだろうな。


 そういった訓練を必要以上にしなかった俺には、これもいい勉強になる。

 人々の視線から発せられるごくわずかな気配に注意を払うも、危険だと思えるものは感じなかった。


 後ろを歩くクラウディアを取り囲むように、子供たちは話しかけていた。

 とても楽しそうなその声色が耳に届くと、俺まで嬉しい気持ちになる。

 その妙ともいえる不思議な感覚が何かを考えていると、レヴィアは代わりに答えてくれた。


「……"縁"とは、とても不思議なものだな。

 出逢い方は様々だが、こうして我らと同じような気持ちを持つものが自然と集まっていく」

「縁、か……。

 "類は友を呼ぶ"なんて言葉も、そんなところから生まれたのかもしれないな」

「クラウディアさんも、フリートヘルムさんにとても良く似ています。

 それは顔立ちや性格などではなく、気配とも違う何かなのですが、それが"何か"は私には分からずにいるんです」


 リージェの言うように、気配とは違う何かなのは間違いなさそうだ。

 それは言うならば、体の中心にありながら肉体的なものとは別だと思える何か。


 言葉として表現するのは難しい。

 それが正しいのかも分からないし、正解だと確信を持つこともないだろう。


 ……そうだな。

 それをあえて言葉にするなら、やはりこれがいちばん近いか。


「仮の話だが、"魂"って呼ばれるものが存在するとして、その輝きから発せられる光に互いが惹かれているのかもしれないな」

「……ふむ、なるほど。

 だとすると、種族の異なる我らも生まれは違えど"同じ存在"と言えるのか」

「きっと大本を辿ると、命とは等しくあるものなのかもしれませんね。

 だからこそ種族を超えて魅力を感じることができる、とも言えるのでしょう」


 人を惹きつける何か。

 それはカリスマと呼ばれ、定着しているのかもしれない。


 だとしても、俺たちが出逢い、行動を共にするのは俺たちの意思によるものだ。

 誰かに言われたわけでも、ましてや神なんて曖昧で不確かな存在に仕組まれたわけでもない。

 こうしてみんなといられることに幸せを感じるのは、俺自身の意思だからな。


 不意にレヴィアから嬉しそうな笑い声がわずかに届き、視線を向けた。


「だからこそ我らは(ぬし)の傍にいる、とだけは伝えておこう」

「……なんだろうな。

 俺には隠し事なんて不可能に思えてきたよ……」

「それはとてもいいことですよ。

 家族に隠し事なんて良くないですから」

「そうだな。

 我もそう思うぞ」


 大人ふたりに子供扱いされたような気がしないでもないが、確かにその通りだ。

 そして同時に、レヴィアとリージェに隠し通せる嘘は存在しないと悟った。

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