信頼してるからこそ
「……んで?
何がどうなってるんすか……」
クラウディアが落ち着きを取り戻した頃合を見計らって、ルーナは訊ねた。
その理由も何が起きたのかも、察しのいい彼女ならもう気づいてるはずだが。
それこそが、この世界の住人よりも遥かに強力なスキルを持つと言われる"空人"特有の技術なんだろう。
「ルーナなら気づいてるだろ」
「……まぁ、"隷属の刻印"も灰になって消えたみたいっすから分からなくはないんすけど、それでもヴァイスっちの言葉として聞きたい気持ちは強いっすよ」
まぁ、そうだよな。
ふたりの覚悟に水を差したし、偽らずに答えるのが礼儀か。
説明する前に聞いてみたが、やはり"隷属の刻印"を解除するにはいくつもの面倒な工程が必要になるとルーナは聞いてるらしい。
さすがに専門外なので、彼女も詳しいことまでは分からないそうだが。
俺が使ったスキルはひとつだ。
後ろにいるリージェを救うことができた、凄まじい効果を持つスキルになる。
「"エスポワール"。
身体、精神、状態異常、瀕死を含む、ありとあらゆる異常を正常の状態に戻すことができるスキルだ」
「……そ、それって、つまり……そういうことっすか……」
「消せたってことは、間違いじゃなかったみたいだな」
エスポワールの効果は、"対象を完全回復させるスキル"だと俺は思っていた。
だが、そうじゃなかった。
このスキルは回復魔法じゃない。
傷を治す効果はスキルの一部でしかない。
エスポワールは、対象のありとあらゆる異常を正常化させる凄まじい効果を持つスキルだ。
ここに俺は、今まで気づけなかった。
思えばリージェが抱えていたものは、自分でも治癒できない難病だった。
ヒールでは体力しか回復せずに原因を消せなかった理由もようやく理解できた。
彼女の病気はキュアⅢでも快復できないほど重いものだ。
キュアⅣなら治っていただろうが、あの時の俺は使えなかった。
それを完治させたスキルだからこそ、"完全回復"の効果を持つと思った。
そう、思い込んでいたんだろうな。
「このスキルは、対象が持つあらゆる異常を正常だった状態に戻す。
それが"不治の病"だろうと、"隷属の刻印"だろうと関係ない」
忍び寄る死を拒絶するほどの強力なスキルともなれば、その存在が世界に与える衝撃も想像できないほどのものとなる。
それを理解したルーナは、半ば呆れ顔で言葉にした。
「最悪の場合、ヴァイスっちを奪い合って戦争が勃発するっすね……。
……まったく……とんでもないものを見せてくれたっすよ、ほんと……」
「それについては謝るよ。
けど、信頼してるからこそ、この場で使ったんだ」
「その気持ちはすごく嬉しいっすけど、いいっす。
もー、なにもかも忘れたっすー。
なーんも憶えてないっすー」
そっぽを向くルーナだが、思うところが多いのも仕方のないことだ。
無実の人を斬ろうとしたんだし、現実にその結末しか俺も考えられずにいた。
……本当にぎりぎりだった。
でも、誰も傷つかずに解決できて良かったと、心から思うよ。




