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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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世は並べて事もなし

 しかし、問題となる厄介事が解決していない以上、やるべきことはある。

 行き交う人が多い町中だからこそできる、気配察知の修練だ。


 気配とは、生物であればどんな存在でも放つものだ。

 これだけ多くの人たちが忙しなく行き交う場所は、多くの気配で溢れている。

 そんな状況でも顔色を変えずに気配を精査し、何に違和感を覚えるのかを理解するには、迷宮のような閉鎖された空間では決して身につけられない。


 魔物はどうか知らないが、人は気配を消し、時には偽るからな。

 それらすべてを等しく感知できるようになるのが理想的な形となる。


 人がいるところでも、いないところでも。

 そのどちらにも対応ができてこその気配察知だ。

 そうすることで、より完成形に進むことができる。


 人の多さにブランシェが酔ったこともあったが、それもいい経験になる。

 さすがに迷宮で過ごした30日だけでこの修練を始められるくらい上達したことには驚嘆するばかりだが、それもこれもすべてはみんなの努力あってだ。


 町を散策しながらも警戒を続ける子供たちだが、疲労感はないようだ。

 元より魔物のふたりに加え、エルルも随分と気配察知が巧くなっている。

 大人たちは子供たち以上の速度でコツを掴み、姉の威厳を確立させていた。

 持ち前の身体能力と合わせ、上位技までしっかりと体得した今のレヴィアとリージェなら、どんな敵が来たところで撃退できると確信するまでの強さに至った。


 そういった信頼を置き、年上のふたりにも子供たちを安心して任せられるようになったことに、俺は心から感謝した。


 最近ではリーゼルも極端な上達が見られ、頼もしさを感じている。

 やはり気配察知と魔力での強化法はとても似通った修練のようだな。

 安定感で言えば、卓越した技術を持つ彼女がフラヴィの次だろう。

 それぞれの長所を伸ばしつつ短所を減らしながら成長できたはずだ。



 ここ2日、のんびりと過ごす時間が次第に多くなっていた。

 ふと思い出したように、シェーネフラウ迷宮都市支店にも足を運んだ。

 建物の大きさに驚き、来店している女性たちの数に驚き、品数の多さと店員の歌と踊りのバリエーションの多さに驚くという何とも驚愕した一日となったことは、これから先も体験できない貴重なものだったと俺には思えた。


 レヴィアとリージェも楽しそうに服を選んでいたし、まるで本当の姉妹のように慕っている子供たちの姿も見られた。

 これだけ喜んでもらえるなら、迷宮都市を出る前にもう一度寄ってみてもいいかもしれないな。


 大都市であるバウムガルテンは世界最大の総人口を誇るとも言われているが、ディートリヒたちやラーラさんと出会う可能性の高い迷宮が置かれた中央付近には寄らず、なるべく落ち着きを見せている南側を拠点として数日間を過ごした。

 周囲から感じ取れる気配にも変化はなく、とても穏やかな日々が続いている。


 まるで狙われていることが嘘のように思えるが、いついかなる時に襲われても動けるように修練を積んできた。

 こういった静かな日常の中でも瞬時に対応できるみんななら、たとえ物陰から小さな針が飛んで来ようとも約束事を決めた今ならば涼しい顔で捌けるはずだ。



 朝食を取ったら出かけて、ふらりと気になった店に寄って、食べ歩きをして。

 カフェで休憩を取って、公園でのんびりして、散歩をしながら笑顔で話をして。


 世は()べて事もなし。

 とても穏やかな日常を、俺たちは満喫していた。



 今にして思えば、それは嵐の前の静けさだったのかもしれない。

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