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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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みんなで食べるから

 1階まで降りてくる手前から随分と賑やかな喧騒が聞こえてきた。

 もう夕方のはずだし、食事をする人たちが集まりつつあるみたいだな。


 木製のジョッキを両手に何個も持ちながら歩くウェイトレスをよけ、家族の下へ向かった。


「あ、トーヤ。

 お話は終わったの?

 リーゼル姉は?」

「着替えてから来るよ」


 俺は答えながら席に座った。

 見たところテーブルには飲み物以外ないみたいだ。


「おかえりなさい、パパ」

「ただいま、フラヴィ」

「ごっはん! ごっはん!」


 満面の笑みでブランシェは歌いながら体を揺らした。

 どうやら食事をしないで待っててくれたようだ。


「やっぱり待っててくれたんだな。

 来る時にも言ったが、長くなるから先に食べて良かったんだぞ」


 子供たちに空腹を我慢させたくなかったから、お金もレヴィアに渡しておいたんだが。

 申し訳なく思っていると、ブランシェはとても楽しそうに答えた。


「ごしゅじん、ごしゅじん。

 ごはんはね、みんなで食べるから美味しいんだよ」

「……そうだな。

 もう少しだけ待てるか?

「うん!

 リーゼル姉がきたら、お腹いっぱい食べるんだ!」

「相当我慢してくれていたみたいだし、今日は好きなだけ食べていいぞ」

「ほんと!?」

「あぁ。

 みんなも今日は好きなものを好きなだけ食べて、迷宮の疲れを取ろうな」

「トーヤのお料理以外は久しぶりだね!

 とってもいい香りがするし、どれを頼んでも美味しそう!」

「わたし、お魚料理が食べたいの」

「あ、いいね!

 あたしもそれにしようかな!」

「アタシは肉にする!」


 とても楽しそうに話をする子供たちだった。



 ダンジョンから持ち帰った魔晶石は換金しなかった。

 ……いや、換金できなかったと言うべきだろうか。


 あまりにも大量に手に入ったこともあるが、渡せない理由が他にあった。


 魔晶石とは、大きさや透明度で価値が変わるらしい。

 暗く深い色で徐々に内部が透き通るとも聞いたが、深部へ向かえば向かうほど魔晶石が変化し続け、内部どころか表面まで透明になりつつあるようなものをギルドに提出することはできなかった。


 正確な価値は専門の道具に通さなければ分からないとは説明を受けたが、明らかにこれは悪目立ちするものだ。

 こんなものをほいほいと人前に出すことも難しいし、出てくる金額も恐ろしいことになるんじゃないかと俺は思っている。


 ましてや修練をしていた65階層のオーガどもがドロップした魔晶石は、水晶のように透き通るほどだった。

 いったいどれだけの価値があるのかも分からない。


 まぁ、まだ資金に余裕はあるし、落ち着いたら小出しで換金するか。

 本音を言えば、いくらになるのか興味はあるんだよな。


 宝石のような魔晶石ともなれば、ひとつ数万くらいは価値が出るんだろうか。

 それとも大して値段は変わらない、なんてことになるんだろうか。


「お待たせしました」

「あ、リーゼル姉、おかえりなさい~」

「はい、ただいまです、エルルちゃん」

「リーゼルお姉ちゃん、座って座って!

 ごはん食べよ、ごはん!」

「はい、すぐに注文しましょうね」


 笑顔で席に着くリーゼルはギルド職員の格好をしていた。

 食後はギルドに滞在し、明日までルーナの講義を受けるらしい。

 あの性格が災いしないかとも一瞬頭をよぎったが、彼女はプロだから素人の俺が心配するようなことじゃないだろうな。


「それで、どうなったのだ?」

「予想した通り、俺のすることは変わらないよ。

 明日の正午に例の人物と対面することになる予定だ」

「ふむ、そうか。

 どうする?

 我らはここから離れるか(・・・・・・・・)?」


 その気持ちも分からなくはない。

 相手にするのは貴族だけじゃないからな。

 気配でも探れないような使い手がいる可能性も考慮すればレヴィアの提案はいいと思えたが、同時にそれは大きなリスクもあると俺は考えている。

 さてどうするかと考えたところで、出せる答えはふたつだけだ。


「それも考えたんだが、人が多い場所にいたほうが手を出しづらいはずだ。

 正直、どこも危険だとは思うが、ここにいれば俺も合流しやすい。

 万が一、必要になったら会いに来ることも可能だ」

「そうか……いや、そうだな。

 (ぬし)から離れることは避けるべきか」


 なるべく俺の近くにいてもらったほうが対処しやすいからな。

 もしそれで暗殺者が襲撃しても今のレヴィアとリージェなら問題なく倒せるし、相手の命を奪うようなことはしないように伝えてあるから、俺が合流するまでの時間を稼いでもらえる。


「なるほど。

 では我らはここで待機しよう」

「私も子供たちを護ります。

 敵が来ても撃退できますし、トーヤさんはそちらに集中してください」

「いや、それはもしもに限ってのことで、可能なら荒事は極力避けたいんだ。

 それにギルド内で表立って問題を起こすようなやつもいないだろう。

 こちらから先に手を出せば、こちらの暴力行為と判断されかねないからな。

 明日はできるだけ穏便に済ませるための行動を心がけてほしい」


 ここは多くの冒険者が食事をする場所でもある。

 酒が入っていると性格が変わるやつもいると聞くし、喧嘩の火種になりかねない事態は最小限に留めたい。


「ただ、周囲には警戒してもらえるか?

 気配を感じ取るのは子供たちよりも優れているし、冷静に判断できるふたりに子供たちを任せていれば俺も安心して話し合えるよ」

「分かりました。

 荒事にならないよう、お約束します」

「うむ、そうだな。

 我も細かな動きは慣れていない。

 動けば壁のひとつやふたつは空けてしまうかもしれないからな」


 ……それはそれで大問題になりそうだな。

 修理代とお叱りだけで済めばいいんだが……。

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