スゴアイテム
「そんでそんで!?
ヴァイスっちは、どんなスゴアイテムを手にしたんすか!?」
眩しいと思えるほどに瞳を輝かせながら訊ねる姿はブランシェを連想させた。
……随分話し込んでいるが、そろそろあの子の腹が減る頃合じゃないだろうか。
「高品質のポーションや魔導具が出たが、それよりもボス報酬箱が良かったな。
特に60階層のボス討伐後に手に入る"淡く光る赤箱"から出たのは一式になってるもので、すべてが高い効果を持つ魔導具の上、セットボーナスもついていたよ」
「……セットボーナスって、なんすか?」
やはり知らないか。
中層とはいえ、あれだけ深く潜った先にある宝箱だからな。
その質だけじゃなく、効果も特質的なものがあったのは間違いないようだ。
「特定のアイテムを一式身につけると追加効果を得ることができる。
装備品によって様々あるみたいだが、俺たちが手に入れたのは耐防御や攻撃力、速度や装備自体の耐久が強化されたものなど色々だったよ」
サイズもある程度は着る人に合わせて調整してくれる不思議な衣服だった。
さすがにフラヴィ用の服をレヴィアが着ることは難しかったみたいだが。
この感じだと、さらに深く潜ればサイズを無視して装備できる防具も本当にあるかもしれない。
《どうやって効果があると分かったんだい?
迷宮ギルドに置かれた専門の道具による鑑定かな?》
未鑑定品を含め、加護とも言われるような効果持つ魔導具は、迷宮ギルドに置かれている道具を使うことで判明すると聞いている。
それらの情報を集めた本を購入して学ぶことで、魔導具屋は文字通りの意味で鑑定をするんだとラーラさんは話していた。
スキルに頼らない鑑定は、俺の世界にいた鑑定士と同じような目利きができなければなれない職業なんだろうな。
魔導具を見ただけでどこの階層の魔物が落とすのか、どんな効果を持つアイテムなのかを理解していたラーラさんは相当博識だったんだと、いまさらながらに気づかされた。
「いえ、独自に"鑑定"したものになります。
この件も配慮していただけると助かります」
《それについても確約させてもらうが、やはり"空人"とは並々ならぬスキルを所持しているものなんだね》
「どうでしょうね。
他の"空人"と会ったことがありませんので、所持しているのかも分かりません。
それに鑑定結果を他人に話せばいらぬ厄介事になりますから、結局は隠れて使うスキル止まりになりますね」
「もったいないっすけど、さすがに見つからないほうがいいっすよ。
ヴァイスっちなら未鑑定品も識別できちゃうんすよね?」
「そうだとは話していないが?」
すべての情報を話すことは、なるべく避けるべきだからな。
装備品の詳細についても伝えないほうがいいだろうと思えた。
この場で聞いている者たちは大丈夫だが、俺自身が余所で口を滑らせる可能性があるから気をつけないといけない。
技術目当てに囲おうとするやつらを退けるのは骨が折れそうだからな。
驚いたような、呆れたような。
何とも形容しづらい表情でルーナは続けた。
「ヴァイスっちなら、さもありなんっす。
もー、何を聞いてもアタシは驚かないっすよ」
「とはいっても、未鑑定品は思っていた以上に入手できなかったぞ。
確か30階層で手に入った剣と56階層の槍、その先の迷宮58階層の淡く光る緑箱から出た弓に、ヘルハウンドを蹴散らしていた時に見つけた相当強いナックルが手に入ったくらいか」
「剣と槍は落ち着いた性能だと思うんすけど、弓とナックルは恐ろしそうっすね」
まぁ、想像通りだろうな。
特にナックル、正確にはガントレットだが、これは弓と同じく淡い緑箱に入ってたアイテムで、その性能は桁違いで強い。
弓も弓で十分ぶっ飛んだ性能ではあるが、正直可愛いと思えるものだった。
【 大地の剣 】
大地の加護が込められた剣。
所有者の能力を上げる効果を持つ。
攻撃力上昇・小、防御力上昇・中。
【 ウィンドランス 】
風属性魔法のウィンドを任意で放つことができる槍。
所持者の魔力をわずかに上昇させ、風属性魔法の効果を少量上げる。
魔力上昇・微、風属性魔法・小。
【 魔弓ミスティルテイン 】
魔法力から作り出した矢を射る弓。
持ち手の能力次第で威力、速度、発射本数を増やせる。
所持者の魔力と魔法攻撃力、最大MPを上昇させる効果を持つ。
魔力上昇・中、魔法攻撃・中、MP+10
【 マナブースト・ガントレット 】
込めた魔力に比例して威力が大きく増える。
さらに同等の魔力を込めると効果は2倍になる。
対象に当てた瞬間、8割の衝撃ダメージを追加で与える。
魔力上昇・大、力上昇・大
……ガントレットはブランシェが見つけた隠し部屋から手に入れたもの。
階層を考えでも相応どころか、ありえないほど危険な火力に跳ね上がる武器だ。
これはブランシェではなくエルルが装備してこそ最高の効果を発揮するが、最大火力で敵を攻撃すれば凄まじいどころではない威力を叩き出すのは間違いない。
しかし、問題はそこではない。
込めた魔力に比例して威力が増えるとなれば、それはつまりエルルが持つ最大火力のマナをガントレットに込め、さらに同じ威力の魔法を込めることで文字通り瞬間的に爆発した火力をぶち込むことが可能となる。
だが軽く力を込めただけで殴った本人があまりの威力にドン引き、二度と使わないと青い顔をしながら俺に渡したほどの凄まじい武器だ。
正直使えない効果を持つ以上、インベントリから出すこともないだろうな。
逆に魔弓ミスティルテインはエルル向きの武器だった。
手加減をすればしっかりと威力も下がるし、マナを押さえれば押さえるだけ矢の本数と速度が上がるから、弓士ではなく魔法使い用の弓だと言える。
本人も気に入ったみたいだし、あれは普通に魔法を放つよりもMP消費を極端に抑えることができるらしい。
その名称に思うところはあるが、深く考えても仕方ないだろう。
だが間違いなくこの弓はレジェンダリークラス以上の効果を持つ。
……まぁ、最大火力は笑えないし、"百本矢の嵐"とか、"千本の矢"なんて突っ込みどころの難しい技を編み出してるから、これもこれで十分すぎるほど危険な武器ではあるんだが……。
「……なんか、ヴァイスっちも相当苦労してるみたいっすね……」
「……否定できないが、強くなるのはいいことだから気にしてないよ」
俺の答えに、何とも言えない空気が周囲を包み込んだ。
大地の剣は2020年8月25日に公開の『3度目の報酬箱』に文字化けで表記された未鑑定品になります。