多くの人が
詳しく聞いてみると、魔法属性もしっかりと彼女はわかっていたようだ。
正直なところ真っ先に教えて欲しかったが、『それじゃつまらないじゃない』と真顔で言われ、何も返せなくなった。
「トーヤ君の属性は"闇"よ」
「なんだよ、それ。聞いたことないぞ」
フランツはそう答えるが、ディートリヒ達も同じ気持ちのようだ。
水晶に灯った色から何となく想像はしていたし、突っ込むところも多々あるが、俺が聞きたいのはひとつだ。
「それで、闇属性魔法では何ができるんだ?」
「そうねぇ。私も詳しくは知らないんだけど、何かそれっぽい能力よ!」
「……つまり、何も知らないってことなのか……」
「そうとも言うわね!」
深いため息をつく俺達を前に、けらけらと楽しそうに笑うラーラだった。
だが闇という言葉から、おおよその見当はつく。
実際に想像通りの力として発現できるかは、修練次第になるんだろうか。
それとも発動できる制限や限界が極端にある能力なのか。
検証をしてみないと危なくて使えない可能性も十分考えられる。
「で、トーヤ君はこれからどうするの?
お食事にする? 常識を教えよっか? それとも魔導具のお勉強かな?」
「食事はもう済ませたから、あとは宿を取るつもりだった」
「まぁ、必要なくなったみたいだし、あとは明後日の夕方に俺達とギルドだな」
「討伐報酬を貰いにロー君のとこに行くのね?」
「ロー君って……。
ギルドマスターをそう呼ぶのはラーラさんだけだな。
それに討伐はしてないぞ。全員捕縛できたんだ」
「おぉー、それはすごいねぇ! で? どんなばっちぃ奴らだったの?」
「……ばっちぃのは確定なのかよ……」
「そりゃあ自分から盗賊になろうなんて輩だからね。
そんな連中は汚くて臭くて根性のひん曲がった気持ち悪い変態に決まってるわ」
「ま、否定はできないけどな」
俺達の出会いもざっくりと混ぜつつ盗賊に関する詳細を伝えると、目を大きく見開いた彼女は呆れながら言葉にした。
「……驚いた。本当に馬鹿の極みじゃない。
この周辺にまだそんな馬鹿どもがいたんだね」
「それでも危なかったと僕は思います。
トーヤさんがいてくれなかったらと思うと、背筋が凍りますよ……」
「そうですね。我々はトーヤさんに助けていただいたのだと私は認識しています。
もしディートリヒさんが出会っていなければ、最悪の事態になっていたのかもしれません」
「……そういうのも運命って言うのかもな。
トーヤと出会えたのは、まさしく"幸運"のなせる業だな」
「ま、盗賊団捕縛依頼なんて、俺達には合わねぇわな」
彼らは安堵した様子で笑い合っているが、幸運なのは俺の方なんだよ。
何も知らない場所に突然放り込まれた。
最悪の場合、何の説明もなく盗賊と鉢合わせ、対峙する覚悟もないままに先制攻撃をされていた可能性だって捨てきれない。
虚をつかれていれば、俺だってどうなっていたか分からないんだ。
彼らと先に出会えたことは、幸運以外の何ものでもない。
「本当にいい子だね、トーヤ君は」
「だろ? こんないいやつ、滅多に逢わないよな」
「……なぜそうなるのか疑問に思うが、たぶん瞳や表情に出てるんだろうな」
「それは直さなくていいわ。ううん、直しちゃだめ。
きっとその瞳に多くの人が惹かれるはずだから。
もしかしたら女の子にモテモテになれるかもしれないわよっ」
むふふと手で口を押さえながらにまにまと話す彼女に、俺は反論しなかった。
ここで答えても違った言葉が返ってくるだろうと思えたからだ。
大体そういったことは間に合っている。
俺はこの世界を楽しみたいんだよ。
そんなことよりも――。
「この世界から元いた場所へ戻る方法を知らないか?」
こっちの方が俺には遙かに重要だ。
いつになるかも分からないし、時間だって飛ばされた時と違うかもしれない。
最悪の場合、大騒ぎになっている可能性も考えられる。
できるなら今すぐにでも帰りたいところだが……。
「……それについては私には答えられない、としか言えないわ」
「……そうか」
「……ごめんね、トーヤ君」
「いや、気にしないでいい。俺自身の力で調べるよ」
何となく、彼女はそう答えるだろうと思っていた。
それについても俺にはこれ以上訊ねることはできない。
そんな瞳をラーラはしていた。