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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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感慨深い階層

 ともあれ、明日の正午に問題の男との交渉が始まる。

 これについては向こうにも伝えてあると一昨日の連絡で聞かされたが、ここに来るまで尾行を含む不快な気配は感じなかった。


 だが、その感覚を安全だと信じることは難しい。

 暗殺者がどれほどの強さなのかも分からないし、俺と多少違うがルーナも気配察知に近い能力を持っていると思われる以上、油断はできない。

 当の本人はけらけらと笑ったり怒りの表情を見せたりと顔色をころころ変えているが、彼女並の使い手が悪党にいたとしてもなんら不思議なことじゃないからな。


 そんなこちらの気持ちを知ってか知らずか、愉快に笑いながら彼女は訊ねた。


「そんでそんで!?

 修行は順調そうっすね!

 いったいどこで鍛えてたんすか!?

 アタシとしては48階層辺りと予想してたんすけど!?」

「……楽しそうだな」

「そりゃそうっすよ!

 ヴァイスっちのことなら興味が尽きないっす!

 実力を考えればもっと下を目指せるはずっすけど、48階層は噂に聞く"色とりどりのスライムさん"たちがぽよんぽよんと舞い踊るらしいっすね!」


 ……竜宮城みたいな言い方をするんだな、なんて突っ込んでも通じないか。


「武器だけじゃなく、魔法の耐性持ちがウヨウヨする場所とも聞いてるっす!

 そういったフロアはスルーして先を急ぐ冒険者も多いらしいっすから、邪魔されずに修行するにはもってこいっすよね!」


 何がそんなに興味深いのか俺には分からないが、彼女の期待に添うような答えは持ち合わせていないんだよな。

 それでも、有意義な時間を過ごせた感慨深い階層ではあったが。


「確かに48階層は面白い場所だったな。

 耐性も個体ごとに違って、スライムの外見からは判断できなかったし。

 稀に金色や銀色をした綺麗なスライムも見つかって、中々楽しめたよ」

「……金や銀のスライムなんて、いるんすか?」


 ちらりとテレーゼさんに確認するルーナだったが、彼女も知らないみたいだな。

 まぁ、冒険者ギルドマスターだから、聞いたことがなくても珍しいことじゃないとは思うが。


《……色つきのスライムは私も見たことはあるが、金色と銀色のスライムは聞いたことがないよ。

 もちろん、すべてを知り尽くしているわけでもないが、それでも一時期は本気で攻略を目指していたこともあって、迷宮には随分と潜ったつもりなんだが……》


「恐らくはレアモンスターでしょうね。

 これは体感になりますが、それぞれの色と同じ宝箱のアイテムがドロップしたようにも思えます。

 "小さなリス型の魔物(クイックスクワール)"よりも遥かに素早く、ロックゴーレムよりも硬い上に斬撃、刺突、衝撃、魔法耐性が非常に高かった印象があります。

 修練にもちょうど良かったですし、相手の攻撃も単調で倒しやすく貴重なアイテムもドロップしたので、フロアのスライムを全滅させるくらいは滞在しましたね。

 中には高い武器耐性と魔法耐性を持つ黒いスライムがいたので、主にそればかり探して倒していたんですが、魔物がいなくなったので先に進みました」

「ぶ、ブラックスライムを、倒せたのですか?」

「いい経験になるので、正確には"探し出して倒し続けた"、が適切でしょうね。

 それでも金と銀のスライムのほうが、遥かに硬かったと思いますが」


 ……なんだ、この驚きようは。

 何かやらかしたんだろうか。


 そんな俺の耳に届いたのはヴィクトルさんの声だった。

 それは驚愕と戸惑いが入り混じっているように聞こえた。


《……ブラックスライムは武器や魔法の耐性が非常に高く、これまで誰ひとりとして倒せたと報告がされていない、迷宮内で最も硬いと言われる魔物なんだよ……。

 むしろ倒すことは不可能だと著名な魔物学者が結論付けたとも聞いている。

 ……まさか、それを倒せる者が出てくるどころか、それ以上の硬さを持つスライムを倒せるなんて、この国始まって以来のことじゃないだろうか……》


「……そ、そんな硬いの、よく倒せたっすね……」

「金も銀も黒も、防御耐性がしっかりしてるだけだ。

 あの程度なら俺やリーゼルはもちろん、俺の家族なら問題なく倒せるぞ」

「……ヴァイスっちがアタシよりも遥かに強いのは十分に知ってたつもりっすけど、まさかあの子たちまで凄まじい強さに到達してたんすね……。

 ……強くなるために迷宮で修行し続けたといっても、さすがに想定外っす……。

 ……常識の削られる音が聞こえてきたのは、生まれて初めての体験っすね……」


 そういえば、似たようなことを前にも言われたな。

 あれはたしかエックハルトから言われたんだったか。


 だがあれは、ただ硬いだけの"色つき水まんじゅう"だ。

 金と銀のスライムも含めて攻撃は弱く単調、おまけにその手段も乏しい。

 それほどすごいことをした認識は、俺もリーゼルもないんだが。


 ちらりと確認するように横のリーゼルへ視線を向けるも、きょとんとした様子を見せていた。

 やはり彼女も驚かれている理由が理解できないようだ。


 でかい和菓子みたいな敵を何十匹倒した程度で強くなりすぎたとは思わないが、ここでもこの世界が持つ住民の弱さを感じさせられるような気持ちになっていた。

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