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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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もう少し慎重に

《リボンをつけて本国に送り返すことは賛成だが、強制送還するのはこちらの準備がすべて完了してからだよ》


 ……そこに触れなくてもいいと思うんだが……。

 案外、ノリのいい人みたいだな、ヴィクトルさんは。


《男の同行者は護衛4人のみだ。

 パルヴィアの騎士鎧を身につけているが、圧倒的な強さは感じないと聞いた。

 しかし、どれだけの関係者が周囲にいるのかも定かではない現在、ギルドとしては表立っての行動を取ることができないが、どれほど些細な罪だとしてもこの国の法に触れた時点で逮捕は可能だ》


 たとえそれが名目上だろうと、今後のためにも確実に動きを封じる必要がある。

 マルティカイネン家が感づいて手段を(ろう)する前に、子息または暗殺者を詰問し、できるだけ多くの情報を吐かせなければならない。

 同時に、暗殺ギルドかそれに通ずる何らかの組織との繋がりを確認できなければ、相手に付け入られる隙にもなりかねない。


 今のところ風はこちらに向いているが、いつ逆風になるかも分からない現状で、俺たちはできる限りの最善手を打ち続けることも重要なんだろうな。


《それに奴隷所持容疑だけで十分捕まえられると我々は考えているんだ。

 あとは時間を稼ぎ、しかるべき準備が整うまで牢屋に入れておけばいい。

 ここまでいけば"現在調査中"を貫いて、必要なだけこちらの自由にできる》


 そのためにルーナを斥候に出す、か。

 彼女なら相手に気づかれることなく追跡できるし、こちらへの連絡も抜かりはないだろう。

 一時的とはいえ男を町中へ放つことになるが、これについても問題ないと彼女はやる気十分の表情で答えた。


《逮捕後、貴族の身柄と共に指輪も冒険者ギルドが預かるよ。

 取り巻きとは別の場所に収監するが、どちらにも監視の目を光らせるし、万が一にも備えて信頼のおける冒険者を配備する。

 これに関してはすべてこちらが取り仕切らせてもらうから、ヴァイス殿には別の案件をお願いしたいんだ》


「暗殺者の件ですね」


《そうだよ。

 連中との接点を持たせるために貴族をギルドから無事に帰すが、その後に取る行動いかんで拘束することになっているのは話した通りだ。

 同時に巨大犯罪組織をふたつ撲滅させるための大規模な作戦を立案中だが、現状ではその要となるランクA以上の冒険者への打診はまったくできていない。

 これは情報漏洩の危険性を最大限に配慮しての対応ではあるが、こういったことは男を捕縛してから動くべきだからね。

 こちらに関しても、すべてギルドに任せてもらおうと思う》


「いらぬ厄介事は増やすべきではありませんから、その考えは正しいと思うのですが、そう簡単に凄腕の冒険者たちとコンタクトが取れるものなのですか?」


 これだけの大都市で特定の人物を見つけるとなると、その方法も限られてくる。

 だとしても、迷宮に潜り続けていれば数日は帰らないこともザラじゃないのか。


 ……と考えていたのは、ここにいる者の中では俺とリーゼルだけだったようだ。

 妙な気配が流れる中、なんとも言いづらそうにルーナは答えた。


「……あー、ヴァイスっち……。

 迷宮に潜りっぱなしってのは、ここじゃあんまり見られないんすよ……。

 ロビーに出れば宿屋もあるし、あったかくて美味しいご飯も食べられるっす。

 ヴァイスっちのように30日も迷宮に入ってるってこと自体、アタシは聞いたことないっすよ……」

「……そうなのか?」

「え、ええ。

 私も長くバウムガルテンの冒険者ギルドマスターを勤めているけれど、丸ひと月も潜り続けたのは最長じゃないかしらね……」


 思わず凍りつきそうになる。

 それでも、ないことだとは思っていなかったんだが、俺の判断ミスのようだ。


 テレーゼさんもルーナと同じような表情をしているな。

 もう少し慎重に行動するべきだっただろうか……。


 だが、どうやらそれだけで終わる話でもないみたいだ。

 続くルーナの言葉に、一瞬とはいえ俺の思考は完全に凍りついた。


「修行に熱中するのもいいっすけど、ヴァイスっちが潜って1週間目くらいに迷宮ギルドから探索依頼がいくつか出されてたんすよ」

「……まじか……」

「マジもマジ、大マジっす。

 んで、それを知った冒険者ギルドが"特殊依頼"をヴァイスっちに出してるって話を迷宮ギルドのマスターに通して、ようやく収まったんすよ」

「……そ、そうなのか……。

 すみません、ご迷惑をおかけしました……」


 まさかここまで大事になっているとは知らなかった。

 こちらの都合を通したとはいえ、迷惑をかけてしまったテレーゼさんに向き合い、俺は謝罪をしながら頭を深く下げた。


「いえいえ、大事無くて良かったです。

 想定外の行動ではありましたが、それだけ熱を入れて強くなろうと努力してくださったのは、こちらとしても良いことですから」


 テレーゼさんの優しさと笑顔から出される言葉が、胸に突き刺さる気がした。

 悪意が微塵もないだけに、申し訳なさが込み上げてくる。


 どうにも"攻略組"との接触を避けることに意識しすぎて、色々な方に随分と迷惑をかけていたようだ。

 あまりにも考えが足りなさすぎた行動だったみたいだな……。


《話を戻すけれど、ランクA以上の冒険者と連絡を取るのはさほど難しくない。

 大抵は空腹になるかフロアを攻略し終えればエントランスロビーに戻り、明日に備えて休息を取るのが一般的なんだよ。

 さすがに稼いだ魔晶石を換金するのは夜が多いらしいし、疲労が溜まったり眠気が襲ってきたら迷宮を出るチームも多いみたいだけど、その日の探索が終了すれば大抵は迷宮ギルドのカウンターで清算することになる。

 余程のことでもなければ捉まらない理由のほうがないんだ》


 ……耳が痛い……。

 ここでも非常識さが出たが、これに関してはリーゼルも知らなかったようだ。

 彼女も5階層で帰っていたみたいだし、迷宮の常識には疎かったんだよな。


 もっと俺が気を利かせるべきだった。

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