万事うまくいく
ギルドマスターの部屋に通された俺たちは、デルフィーヌとルーナ、バウムガルテン冒険者ギルドを預かるテレーゼさんの3人と再会する。
来客用のソファーにこのギルドでいちばん偉い人よりも深く腰を掛けながら、こちらに手をひらひらと振る楽しげなルーナに思うところはあるが、とりあえず潜入捜査は成功したみたいで安心した。
「待っていたわ、ヴァイスさん。
それにリーゼルも、同席に感謝するわ」
「お久しぶりです、テレーゼさん」
「失礼します」
丁寧にお辞儀をする仕草は、さすが一流商家の娘といったところか。
淀みが一切ない、気品の中に美しさを感じさせる所作だった。
「おっすおっす、ヴァイスっち!」
「元気そうで何よりだ」
「なはは!
本業でヘマはしないっすよ!
でも心配に感謝するっす!」
本音を言えば、この町の暗部へ溶け込むように潜入するなんて俺にはできない。
それならむしろ、拠点を外から一撃放って崩壊させたほうが遥かに楽だろう。
その場合は確認が大変だから、そういった意味では現実的じゃないんだが。
「……なんか、おっかないこと考えてるっすよね、ヴァイスっち……」
「また顔に出てたのか……。
随分訓練したつもりなんだが……」
「なはは、ただの勘っすよ」
俺の考えを見透かされているみたいに苦笑いをするルーナだった。
こほんと咳払いをしたテレーゼは、いつものように水晶へ話し始めた。
どうやら向こう側でも俺たちが来るのを待っていたみたいだな。
「テレーゼです。
滞りありません」
《そうか。
無事で何よりだよ、ヴァイス殿》
「お久しぶりです、ヴィクトルさん」
《こうして話をするのは、ちょうど30日ぶりだね。
今回もこちらには各ギルドを治める者たちと次官が同席している。
一昨日、テレーゼから大まかに話は伝わっていると思うが、改めて私からも話させてもらうよ》
「お願いします」
ぴんと張り詰める空気を感じながら、俺は彼の言葉を待つ。
だが、おおよそは聞いた通りで、大きな変更点はないと思われた。
そうでもなければ昨日までに緊急連絡として話が来るはずだからな。
逆に言えば、俺が取る行動にも大きく変わる点はなさそうだ。
予定通りに貴族の男を捕らえることができれば、万事うまくいくだろう。
……不測の事態さえ起きなければ、ではあるが……。




