気合は十二分
ウォッシュとドライでぴかぴかのブランシェは機嫌を直してくれたが、次のカエルと遭遇する前に対処法を見つける必要が出てきた。
もっともそれは単純な話で、一言で表現するなら粘液を浴びないようにヒットアンドアウェイをすればいいだけなんだが、それを今の子供たちが取れる手段かどうかは要練習だと俺は判断している。
攻撃は同時に大きな隙も作り出す。
そう教えてはいるが、実際に回避しながら十全な威力を相手に当てるやり方は簡単なように思えて、その実かなり難しい。
それを体現するには強靭な足腰と、いついかなる時も冷静に対処できる精神力、研鑽を積み重ねた技術力、何よりも経験が必要になるだろう。
しかし、魔法を使えるエルルはその必要がない。
そして防御壁を発動することですべてが解決するんだが、どうにも火がついたブランシェはそれで納得してくれることはなさそうに思えた。
「あんな目に遭ったんだから、その気持ちも分からなくはないよ。
でもな、冷静になれなければ、上手くいくものも失敗するものなんだ。
気色悪いかもしれないけど魔法で綺麗にできるんだから、勉強するといい」
「うん!
倒す!
絶対倒す!」
ふんふんと鼻息を荒くしてのしのしと歩きながら答えるブランシェに、レヴィアは静かに答えた。
「ふむ。
気合は十二分だな」
「言いたいことは伝わるんだが、つまりそれは入れ込みすぎってことだよな」
「そうなるな。
しかし、我でも魔法を使わなければ回避は難しいと思うんだが、今のブランシェにその対処ができるのか?」
「どうだろうな。
あの速度で斬りつけてああなったわけだからな。
素直にエルルの魔法壁でガードするのが確実だとは思うんだが……」
「ブランシェちゃん、魔法に頼らず戦おうとしていますね」
「それも悪いことではないし、何よりもその対策は考えるべきだ」
問題はその液体が人体に影響を与えるような危険物なら今のブランシェでも対処法をしっかりと考えてくれるはずなんだが、ただぬとぬとしていただけだからな。
あの子はトードに嫌がらせをされたと認識しているんだろうか。
苛立ちのほうが遥かに勝っている現在の状況で対処をするのは難しいと言わざるをえない精神状態だとしか、俺には思えない。
こういった時にこそ冷静さが必要になるんだが、まぁ、これもいい勉強か。
苛立ちを抱えたまま、どれだけのことができるのかを見るにはちょうどいい。
「前方にある左の道から250メートル進んだ位置にトードがいる。
宝箱を優先するかは任せるが、今のあの子は魔物しか見えていないな」
「それは、あまりいい傾向とは思えませんが……」
「あの子の性格を考えると難しいかもしれない。
こういったところは子供っぽくて可愛いんだが、そんな中でも危険を見極められないと今後大きな問題になるな」
勝気で、負けず嫌いで泣き虫で、しょぼくれたり明るくなったりとオンオフがはっきりとしている表情豊かなブランシェだが、ある意味ではいい相手と出遭えたと言ってもいいと俺には思えた。
「ブランシェもフラヴィも、生まれたばかりだからな。
そういった点を考慮すれば拙い思考でも十分なんだが、本人が納得していない以上はそれも仕方がない」
「ならば我らにできることは、子供たちの成長を見守るだけ、か」
「そうだな。
今回の敵はレヴィアたちも魔法以外の対処が取れるようになれるといいんだが、それはみんなの判断に任せるよ」
青い顔をしながらも笑顔で歩くリーゼルには違った意味で難しいだろうが、持ち前の身体能力を活かせばレヴィアとリージェは問題なく対処ができるはずだ。
特にリージェは、日に日に筋力の使い方を学んでいるからな。
初めはブランシェ並だったが、現在の彼女は俺たちの中でもレヴィアに次ぐ強さにまで成長している。
技を使わずに相手をすれば、もう俺では対処しようがないほどの実力者だ。
そういったことを考慮すると、エルル以外には勝てない身体能力なんだがな。