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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十三章 大切な家族のために
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強気の姿勢

「もー! なにこの魔物!」


 地面に座り込みながら叫ぶ、てかてかのブランシェ。

 滝のような涙を流し続けるその光景を何とも言えない表情で見つめる俺たちは、言葉をかけられず立ち竦むように見つめていた。



 遡ること10分前。

 ゴブリン階層を突破した俺たちの前に現れたのは、1匹の巨大なカエル。

 ゲームなんかじゃ定番のモンスターなんだが、残念ながら倒すだけでは済ませてくれない相手のようだった。


「今度はカエルさん?」

「……あいつ、そんな可愛い名前は似合わないくらい気持ち悪いよ、フラヴィ」


 呆れた視線をカエルに向けながら話すブランシェだった。


 そう言いたくなる気持ちも分からなくはない。

 確かにどこか歪にも見えるその表情は、"カエルさん"なんて顔をしていない。

 むしろ怪物に分類できそうだと俺は思えたくらいだ。


 中でも異彩を放っているのは、その大きさか。

 とても一般的なカエルとは思えなかった。


「ふむ。

 カエルにしては大きいな」

「体長1メートル30センチってところだろうか。

 不気味な顔から察すると凶暴性すら感じさせるが、気配はわりと穏やかだな」

「レーヴェレンツの南東にある沼地に生息する"ラージフロッグ"に似ていますが、顔の印象は随分と違いますね」

「あれはフロッグじゃなくて"トード"だな。

 トードとはヒキガエルのことで、俺の世界では"嫌なもの"なんて意味も含まれてるって聞いたことがある。

 この世界でも同じように言われているかは分からないけどな」

「つまり今度の相手は顔に難がある"ラージトード"、ということですね」

「その言い方は若干気になるが、おおむね合っているか。

 だが、見た目以上に性質が厄介に思える魔物だな」


 冷静に分析する俺たちだが、気配から勝てると判断したブランシェは強気の姿勢を見せた。


「大丈夫!

 アタシたちなら倒せる!

 そしてあいつの先にある青箱を開けよう!」

「んー?

 ……あ、何かある、かも?

 あんな先にある点みたいなのが見えるんだね。

 ブランシェは耳も目も良くて羨ましいよ」


 目をすぼめて確認するエルル。

 その離れた宝箱は、俺も点にしか見えなかった。

 フラヴィとリーゼルもそれほど視力は良くないが、レヴィアとリージェには見えたようだ。


「あれを開ける前にカエルを倒す必要があるな」

「強い気配は感じられませんね。

 毒のようなものを持ってる可能性は考慮するべきでしょうけど」

「リージェの言うように、今後はそういった相手もいると考えながら行動した方がいいと俺も思うよ。

 迷宮内に毒を持つ魔物はいないとギルド職員から聞いてるけど、相手の攻撃を完全に回避しながら倒す"完全勝利"が理想的な勝ち方だからな」

「「完全勝利……」」


 瞳をきらっきらさせるブランシェとエルル。

 言葉の響きに憧れと、勝利した自分たちの姿を想像しているんだろうな。


 しかし眼前のそれは、そう単純な魔物でもなさそうだ。

 危険ではなくとも中々厄介な敵のようだし、俺ならなるべく触らずに――


「よし!

 いくよ、みんな!」

「「おー!」」


 いつもとは掛け声の違う子供たち。

 ブランシェの言葉に右手を上げるフラヴィとエルルか。

 気合が乗るとこうなるんだが、今回はもう少し様子を見るべきだぞ。


「……ふむ。

 若干の不安を感じるが……」

「少し観察が足りないようにも思えますね」

「まぁ、これも勉強だ。

 特に危険はなさそうだし、怪我もしないだろう」

「……なぜでしょう。

 背中がむずむずするのですが……」


 腕を抱えるリーゼルが感じているのは嫌悪感じゃないだろうか……。

 そんなことを考えながら、魔物との距離を詰める子供たちを見守った。


 正面にブランシェを捉えたラージトードは、飛び跳ねながら襲いかかる。

 あの重量で150センチも地面から離れるとなれば厄介ではあるが、空中では大きな隙が生まれることもしっかりと教えてある。


 冷静に直線上から離れたブランシェは、体を小さく1回転させながらダガーを横薙ぎに通した。

 それも魔法による強化がされた一撃なら、相手に大きなダメージを与えられる。

 当たりどころ次第では致命傷にもなる凄まじい攻撃だった。


 体を1回転させることは、大きなリスクがある。

 これは気配察知で相手の動作が見えているからこそ安全性を保てる技術だ。

 今の3人なら問題なく背後から迫る敵の攻撃も避けられるだろう。


 だが……。


「うぇええ!?」

「ぶ、ブランシェ!」

「……だ、大丈夫?」


 ラージトードを斬りつけた瞬間、体を覆っていた粘膜状の液体がブランシェへ襲いかかるように噴き出した。

 あの体勢から避けられず、粘液を直撃したぬとぬとのブランシェ。


 心配するふたりの言葉も届かないほどの精神的ダメージを受けたようだ。

 地面にへたり込むブランシェは、滝のような涙を流しながら強く言葉にした。

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