できるようになっておきたい
ゴブリンを蹴散らしながら歩いていると、宝箱を見つけた。
その光景を見た子供たちは、歓喜の声を上げながら言葉にした。
「ごしゅじんごしゅじん!
宝箱! 宝箱! 青いの!」
「あぁ、そうみたいだな」
「青いのは初めてだね!」
「うんうん!
何が入ってるのかな!?」
瞳を輝かせる3人に微笑ましく思うが、さすがに青箱は緑箱よりも希少性が低いと言われているそうだし、インヴァリデイトダガーのような凄まじいものが入っているとも思えない。
それでもこれまで木箱しか見ていなかったから、色つき宝箱に胸を高鳴らせてしまうのも仕方ないことなのかもしれないな。
「何かな何かな~」
「きっといいものなの」
「うんうん!
だって青いんだもんね!」
あまり期待はしないほうがいいと思うが、その楽しそうな子供たちの気持ちに水を差すことはできなかった。
できれば"いいもの"が出てくれたら、笑顔を崩す3人を見ずに済むんだが……。
仲良く3人で箱を開ける姿に微笑みながら、俺たちはその光景を見守った。
「おぉー! これは!」
「きれいなの」
「なんだろ、これ。
……腕輪、なのかな。
トーヤ、分かる?」
箱から取り出されたのは、銀の腕輪と思われる装飾品だった。
磨き上げられた美しい色合いではあるが、細部まで細かく作られたものではなく、実用性のある装備品としての役割がありそうな腕輪に思えた。
大きさからいって大人用のものだ。
ある程度サイズ調整が可能な柔軟性のある金属に、俺は驚いた。
とはいえここは異世界だし、銀の装飾品だろうと俺の知る常識では推し量れない何かがあっても、別段不思議なことではないんだが。
「……何か、付呪加工が施されているな……」
「そうなの?
お名前とか効果も分かる、トーヤ?」
「いや、俺の鑑定スキルじゃ見られないな。
名前も"銀の腕輪"としか表記されていないみたいだ」
装飾品の中には名称が付いていないものも多いらしい。
銀の指輪や金のネックレスなど、作り手が銘をつけなければ鑑定スキルでも表記されないんじゃないかとラーラさんは話していた。
実際、誰が作ってここに置いたんだよ、なんて突っ込みをしたくなるが、それを言ってしまうと宝箱から手に入るすべてのアイテムに疑問が出てくる。
そういった世界なんだろうと考える程度で収めておかないと、神経質なやつなら眠れなくなりそうだ。
……だが、やはり鑑定スキルを使い続け、性能を向上させるべきかもしれない。
正直、不便さを感じ始めていたし、毎回ロビーに戻ることは避けたいからな。
スキルを英数字にまで高めても未鑑定品を判明させられるとは限らないが、それでも付呪された効果くらいは見られるようにしたいのが本音だ。
そうなれば、今後手に入るだろう付呪装備の詳細を知った上で使えるだろう。
ゴーレム討伐報酬の宝箱から出た剣も有益な効果をもたらすかもしれない。
鑑定スキルで俺自身が判別できれば、それに越したことはないんだが。
「ねぇごしゅじん、とりあえず装備して使ってみる?」
「それは付呪されたものが何かを確認してからがいいと思うよ。
装飾品につけられたエンチャントの中には、良くない効果を持つものもある。
特に装飾品の中には呪いを連想するような効果を与えるアイテムもあるんだよ」
その言葉に重みを乗せて話したためか、思いのほか強く反応された。
だが、そういった覚悟を持たずに軽はずみな行動は慎むべきだ。
これくらいの言い方がちょうど良かったのかもしれない。
「呪い!?
そんな効果があるかもしれないの!?」
「俺はそう学んでいるよ。
この腕輪からは嫌な気配はしないけど、その感覚を信じるのは危ないからな。
できるだけ効果を判明させてから装備するべきだと思うよ」
「ふむ。
我がそういったものにかかるとも思えないが、やはり注意するべきだろうか?」
「恐らくレヴィアでも影響があると俺は考えるよ。
本来の大きさに分散されて効果を受けるのか、それとも俺たちと同じなのかは分からないが、いい効果と悪い効果で違いがあるかもしれない以上、試すことは極力避けるべきだと思うよ」
もっとも、相手に致命的なダメージを与えるような効果を持つ呪具が簡単に手にできるとは考えにくい。
今はそういったものが存在すると仮定して、スキルを上げるべきか。
この腕輪がどんな効果を持つものなのもまだ分からないが、ひたすら鑑定をし続けてみるって手もある。
それでランクが上がればありがたいし、なければ別の道を探すだけだ。
いつかは修練しようと思っていたスキルでもあるからな。
特にこの迷宮では役に立つ可能性が非常に高い。
上手くいけば非常に便利なスキルに化けるかもしれない。
……なんてのは、俺の希望的観測に過ぎないか。
未鑑定品を判別できるようになるかは分からないけど、魔導具につけられた付呪の鑑定はできるようになっておきたい。
確認するためにエントランスまで戻るのも面倒だし、いらぬ厄介事に巻き込まれないとも限らない以上、俺自身の手で判別させられるようにしたいところだ。
それでも俺は、スキルを使い続けるだけでも効果が上げられると、どこか信じているんだろうな。
どこか確信させる"空人特有のスキル"に思いを馳せながら、名もなき銀の腕輪をインベントリに入れた。




